第3話 目覚め

「ライクは、魔法使えるの?」


 食事をしながらの突然の問いに吹き出しそうになる。

 この世界が魔法があるのはサラッと聞いていたが、そんなに簡単に使えるようなものでは無いような認識でいたんだけど。


「ま……ほう?」


 何も知らない方向で行こう。

 そう思って、魔法という言葉も知らないということにする。


「そっかぁ。スラムにいたからわかんないもんね! 魔法って言うのは、自分に合った属性があって、それで体内の魔力を使ったり空気中の魔素を使って発生させる現象みたいな感じ!」


「ふーん。イブさんは何属性なんですか?」


「私? 私はねぇ、炎なのよ。火が基本属性なんだけど、派生属性の炎なの」


 基本属性も何があるかわかんないからなぁ。


「基本属性って?」


「あっ! 火、水、風、土、雷、光、闇の七種類! それぞれに派生があるんだけど、それは色々だから後で勉強しよう!」


 勉強……。

 その言葉を聞くだけで気持ちが暗くなるな。

 前の世界でも勉強はあまり得意ではなかったからな。


「自分のスキルはわかる?」


「わかりません。でも、ヒメノが体調を崩した時、バイオ情報を弄れたんですよね」


「ばいお?」


「はい。自分の身体の情報って感じですね」


「ふーん」


 少し考える素振りをしている。

 どういうスキルかを整理しているのだろう。

 僕が使える人間か見定めているのかな?


「例えばですけど、イブさんの情報を見せて貰って情報を覚えれば、僕も炎属性になれると思います。あと、自分の属性を知る方法はありますか?」


「それはかなり使えるわね。自分の属性は鑑定系のスキル保持者がいるから見てもらいましょ。それと、そんなに警戒しなくても、養子にするのやめたりしないわよ。安心なさい」


 僕の考えすぎだったみたい。

 捨てられるのかと思った。

 前の世界の親みたいに。


 話しながら食べていたらあっという間に寿司は無くなっていた。

 こんな美味しいご飯を食べたのは久し振りだ。


 ん?

 久し振りなの?

 僕は昨日転生したばかり。


 もしかしたらこの身体の持っている記憶かもしれない。

 よく考えたらおかしい。

 気づいた時はもうこの体だった。


 ここまで成長する過程が別の人格であったんだろう。

 それは、ヒメノも同じく。

 前の魂は死んでしまったのだと思う。


「はい。でも、僕は使えると思いますよ。恐らくですけど、この身体も大きく出来ると思います」


「自由自在ってこと?」


「恐らく。ただ、改変されるまでのタイムラグがどのくらいあるかわかりません」


 そう。

 試してないから分からない。

 試してみないとなぁ。


「そう。今晩試せる?」


「はい。試してみます。あと、イブさんの情報を見せてもらってもいいですか?」


「いいわよ」


 あの時のイメージをそのまま再現する。

 対象をイブさんに。

 そして、情報を見たい!


 ブンッと目の前にイブさんのバイオ情報のウィンドウが表示された。

 なんの属性かはわかる。


 しかし、僕と違ってグレーアウトされていて編集はできないみたい。

 姫乃はできたけど。

 血の繋がりがないからかな?


 魔法の属性を見る。

 バイオ情報をみて覚えようとすると。

 ポップアップが上がってきた。


【魔法属性 炎を記憶しました。】

【属性情報を改変する際には、選択が可能です】


 うん。

 自分で覚えなくてもよかったね。

 勝手にスキルが記憶してくれるみたいだ。


「それ、私には黒い画面にしか見えてないのよねぇ」


 それは、貴重な情報だ。

 周りを気にせず弄れるという訳か。

 だが、なにかしている事は分かってしまう。


 それくらいはしょうがない。

 ウインドウを閉じるように念じると、イブさんの中に戻っていった。


「それで、僕の属性も知りたいんですけど」


「えぇ。今呼んでくるわ」


 席を立つと食事をしていた一人を連れてきた。

 食事中だが笑顔で来てくれる。


「この子が鑑定できるから」


「さっきはどうもー。ナナでーす」


「よろしくお願いします。ライクです」


 ペコリとお辞儀をすると。

 驚いたように目を大きく見開いた。


「礼儀……正しい」


「凄いでしょ? うちの子!」


 イブさんが偉そうに大きな胸を張っている。

 そんな風に自慢げに言うイブさんを少し可愛く思ってしまう。


「流石! 団長の子は違いますねぇ」


 のせるのも上手い。

 この人は人付き合いが得意なんだな。

 そう思った。


「でしょー? この子、鑑定してみてくれない?」


「はぁい! 鑑定!」


 ナナさんには鑑定結果が見えているみたい。

 ウンウンと頷いている。


「見えました?」


「はい! スキルはバイオハッキング? 聞いたことないですね。魔法属性は白雷と出ています」


 なるほど。

 前の世界での経験を引っ張って来たんだ。だからバイオ情報を見れたのか。

 しかし、魔法属性が。


「白……雷?」


 これまた何やら基本属性ではないような。

 困った目でイブさんを見るとニコニコしていた。


「派生属性ね。白ってことは光属性つきじゃないかしら?」


「そうなんですね。自分のも認識できるのかな?」


 自分のウインドウを出して魔法属性のところの配列を見る。

 同じくポップアップが出てきて記憶したことを教えてくれた。


「できた?」


 ニコニコしながらイブさんが聞いてきた。

 何やら凄く嬉しそうである。


「はい。ヒメノの様子を見に戻ります。ナナさん、良ければ妹の属性も見てもらっていいですか?」


「うん。いいよー」


 ゆっくりと歩いて部屋に向かう。

 周りから不思議そうな目で見られる。

 見知らぬ子供が歩いていたらそう思うだろう。


 ガチャッとヒメノの部屋の扉を開ける。


「じゃあ、おね────」


「誰? お兄……ちゃん?」


 前の世界でいっこうに目を覚まさなかったヒメノが、目を覚ましたのだ。

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