第2話 食堂で

「えぇ!?」


 女性隊員の驚きの声で皆がこちらを振り返る。


「はぁ……ナナ、持ち場に戻りなさい。後で皆には説明するから」


「はっ! すみません! 失礼します!」


 急に背筋を伸ばして敬礼する。

 そして、そそくさと去っていった。


「はぁ。ごめんね? 今決めちゃった!」


 そう言うとニコッと笑い、舌をペロッと出して「エヘヘ」と全力で誤魔化している。


 僕達は前の世界でも親はいなかった。

 捨てられたのだ。

 ヒメノが原因不明の寝たきりになったから。


 それを治療しようとバイオハッキングをするようになった。研究をしていたが、気付い時には親は居なくなっていた。


 たぶん僕達に見切りをつけたんだと思う。

 この子達と居てもしょうがないって。

 この人も同じじゃないだろうか。


「あっ、この部屋よ?」


 部屋に入るとトイレとシャワールーム、洗面所とキッチンがあり、一人暮らしには困らない設備であった。


 洗濯は来る時にあった洗濯場を使うんだろう。

 何だが見たことない設備があったから。


「一人……部屋?」


「そっ、ここは妹ちゃんの部屋。隣が君の部屋! あっ、名前聞いてないし言ってなかったわね! 私はイブ・アーランドよ!」


 別々の部屋を使わせてもらえるのか。

 でも、目を覚ましたら良いけど……。


 そう思いながらも、とりあえず寝かせることにした。

 柔らかそうなベッドである。

 寝かせると少し沈む。


 スースーと気持ちよさそうに寝息を立てている。

 無事に落ち着いたみたいでよかった。

 しばらくヒメノを見ていると。


「ねぇ、無視しないでよー」


 あっ。

 忘れてた。


「ごめんなさい! えーっと……」


「私は、イブ・アーランドよ! 君は?」


「僕は……ライクといいます。妹はヒメノです」


「スラムにいたのよね?」


「……はい」


 前の世界とかの話をすると面倒だと思いスラムにいたと言ったがまずかったかな。

 少し怪訝な顔をされてしまう。


「ふーん。その割には丁寧な話し方なのね?」


「はい。母に目上の人にはこういう話し方をした方がいいと教えられました」


 苦し紛れな感じになってしまったが、どうだろうか。

 少し様子を伺っていると。

 ブツブツ言っている。


「……貴族の出だったのかしら? それにしてもスラムにいるなんて……どっかの貴族に捨てられたとか?……無い話ではないわね……」


 顎に手を当てて考えていたが、バッと顔を上げた。


「まぁ、分からないからなんでもいいわ! ライクとヒメノは今日から私の子よ! いいわね?」


「……でも、迷惑なんじゃ……」


「いいのよ! さっ、お腹すいてない?」


「すいて────」


 グゥゥゥゥゥゥ


「ふふふっ。正直でよろしい。こっちが食堂よ」


「すみません……」


 笑顔で案内してくれた。

 基本的に魔法師団の人はタダで食べれるらしい。

 その子供もである。


 つまり……。


「食べ放題よ? 好きなの食べなさい?」


 おぉう。

 ハンバーグ、パスタ、ラーメン、寿司。

 この世界にも何故か前の世界の食べ物が沢山ある。


「寿司……食べたいな」


 ボソッと食べたい希望を言ってみる。

 すると、聞き届けたイブが注文した。

 

「おばちゃん! 寿司大盛り二で!」


「あいよ! 見ない子だね!?」


 食堂のおばさんも元気で、活気が溢れていた。

 ちょっとふくよかで肝っ玉かぁちゃんといった風の姿である。


「私の息子にしたんだよ!」


「そりゃ、本当かい!?」


 目を剥いて驚いている。

 こんなに幼い子を何処で拾ってきたのかを心配しているのだろう。


「攫ってきた訳じゃないわよ!? 親が亡くなったって言うから連れてきたんだからね!?」


「はぁいはい。疑ってないよ。ぜーんぜん疑ってません」


 オバチャンは肩を竦めて笑いながら言う。

 その言い方は子供をあやすような。

 茶化すような感じだった。


「むーーー」


 イブさんは頬を膨らませて怒ってますといった顔をしている。

 オバチャンはお構い無しに「はい。おまち」と言って寿司を渡してくれた。


 出てきた寿司を見ると本当にちゃんと寿司だったことに驚いた。

 目を見開いて驚き感心していると。


「驚いた!? ここはねぇ、港町から転送魔法陣で輸送してるから新鮮な魚が食べれるのよぉ! 凄いでしょ!?」


 ドヤ顔で見つめてくる。

 凄く綺麗な顔を近づけられるとドキドキしてしまう。

 サッとそらす。


 すると、更に近くに顔を近づけてきた。

 これは、凄いって言って欲しいんだ。


「凄いでしょ!?」


「す、凄いですね」


 半強制的にそう返事をすると「むふふぅー」といって嬉しそうに歩いていく。


 食堂には四角い長テーブルが何列にも並んでいて、かなりの人数を収容できると思われる。

 実際には外食の人もいるので食べてる人はまばらだ。


「ここにしましょ」


 端っこに対面に座る。

 両肘をついて手に顎を乗せ。

 ニコニコしてこちらを見てる。


 食べづらいなぁ。

 けど、もう誘惑には勝てない。


 醤油につけ。

 パクッと一口食べる。

 酢の匂いが鼻をぬけ、刺し身の旨味が口に広がる。


「美味しい……」


「でしょー? ここの料理はどれも美味しいわよ!」


 なぜ寿司があるのか。

 なぜこんなにも前の世界の食べ物があるのか。

 不思議で仕方がなかった。


 その謎は、これから解明されていくのか。

 いかないのか。

 これからの話のお楽しみ。

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