みなしご兄妹の成り上がり転生~ユニークスキル「バイオハッキング」で最強に至る~

ゆる弥

第1話 転生からの始まり

「今日こそ、救ってやるからな! 待ってろよ。姫乃ひめの!」


 俺は、今日も研究室に籠ってバイオ情報を研究し、姫乃の病を治そうと細胞と睨めっこしている。


 2055年。バイオ情報の研究が進化し、個人でもバイオ情報を研究して改変することができるようになった時代。


 その者達を世の人達はバイオ情報を改変することから、バイオハッカーと呼んでいた。

 そのバイオハッカーの一人がこの雷玖らいくである。


 この日も姫乃の病の原因を探すことは出来ず、夜を迎えることになったのであった。


「はぁぁ。結局、今日もダメかぁ。ゴメンな。姫乃……」


 姫乃の布団をかけ直して横の椅子に腰かける。


「どうやったら、姫乃の病は治るんだろうな?」


 姫乃の顔を見ながら布団に顔を伏せる。

 どうしたらいいんだ俺は……。

 疲れ果ててそのまま寝てしまったのであった。


 パァァァっと二人を光が包み込む。

 そして、光が……二人を飲み込んで行った。

 後にはもぬけの殻の部屋だけが残った。


◇◆◇


 急に意識が覚醒し目を覚ましたが、ボロボロの小屋にいるみたい。

 手が小さいという事は、子供の身体のようだ。

 隣を見ると女の子が倒れている。


 顔を見ると姫乃と瓜二つだ。

 この子は姫乃だ。

 間違いない。そう確信した。


 反対側を見ると女の人が息絶えている。

 慌てて姫乃も確認すると、息はしているが荒い。汗をかいていて呼吸が浅い。


 手遅れになるかもしれない!


 どうする?

 何か手はないか!?

 っていうかここはどこだ!?


 治療器具があったはず……!

 ちがう! ここは俺の知ってる家じゃない!

 俺のバイオハック装置は!?


 そう考えた瞬間、目の前にウィンドウが現れた。


ブンッ

 

「うおっ!?」


 なんだこれ? 一体なんのウインドウだ?

 表示されていデータをよく見る。この配列と形は。

 ……これは、バイオ情報だな。

 これで弄れるのか!?


「これは……どの配列がどの分類のものなのかが、なんとなくわかる! 不思議だ。今まで分からなくて苦労していたのに」


 体に対する免疫、身長、体質等に関する部分を設定出来る。


「ヒメノの病気に対する免疫を、最大限にする! 対象は俺じゃない! ヒメノだ!」


 すると、ヒメノのバイオ情報が身体の中から『ブンッ』と上に表示された。


 ここを……こうして。

 ここの情報をこうして……。

 ……そして、ここにこの情報を入れる。


 インストールボタンがある。


「頼む! 俺の妹を、助けてくれ!」

 

 ボタンをタップする。

 ウィンドウはヒメノに戻っていった。

 様子を見ていると、数十秒後には呼吸が安定してきた。


「はぁ……よかった」


 ヒメノの呼吸は落ち着いたようだ。

 いったいどういう事だったのだろうか?

 理解が追いついてない。


「とりあえずヒメノが休めるところを探さないと!」


 ヒメノを死なせる訳には行かない。



「私はね、ニイが自分の好きなように生きていっていいと思うよ?」



 俺が悩んでいた時、その言葉が俺を救ったんだ。

 ずっと耳に残っているヒメノの言葉が俺の気持ちをここまで突き動かしてきた。


 お姫様抱っこをして小屋を出る。

 人が沢山いる通りをみつけた。

 あそこに行けば何かわかるかも……。


 抱っこしたまま大通りに出る。

 凄い人で埋もれそうだ。

 人の多さにオロオロしていると。


 一人の男に難癖をつけられた。

 

「なんだよお前! なんでスラムから出てきたんだ!? 汚ぇな!」


 その男は足を上げ。

 振り下ろしてきた。


 とっさにヒメノを庇う。

 衝撃がとどかないように包み込む。

 痛い思いをさせてたまるか。


 背中を強く強く。

 踵を叩きつけるように蹴り下ろしてくる男。


「汚ねぇんだよ!」


 今は子供の体だ。

 大人の蹴りはかなり痛い。

 痛みを我慢し堪える。


 どのくらい耐えただろうか。

 もう途方もないくらい長い時間に感じられた。

 もう死ぬんじゃないかと諦めかけた時。


「ちょっとあんた! そんなに小さい子供に何してんの!?」


 女性の怒鳴り声が聞こえる。

 なんだかかなり怒っているようだ。

 女性に意識がいったからか、痛みが止んだ。


「べ、別に俺は、スラムから出てくるなって教育してたんだ! 魔法師団の人に何か言われる筋合いはねぇだろ!?」


「そうかもしれないけど、こんな小さい子を蹴るなんて頭おかしいんじゃないの!? 牢屋に入れるわよ!?」


「お、俺は、何もしてねぇ!」

 

 僕を蹴っていた男は慌てふためき、ドタバタと足を絡めながらどこかへ逃げていったようだ。

 少しだけ見える男の足が遠ざかっていく。


 静かになったかと思えば、近付いてくる足音。

 また蹴られるのか? もう勘弁して欲しい。

 そう思い身を縮めて衝撃に備える。


 しばらく経っても衝撃は来ない。


「君、大丈夫? 痛いところがあったら言って!?」


 思わぬ言葉に少しだけ顔を上げる。

 すると、白ローブを着たブロンドの髪を靡かせた綺麗な人がいた。


「大丈夫……です」


 話した時に脇腹に痛みが走り少し言葉が途切れてしまう。

 痛がってると分かったらまた病院とかに連れていかれるかもしれない。

 そんな金は持ってない。


 その女性は涙を目に溜めて悲しそうにこちらを見つめてくる。


「その子は?」


「い、妹です……では、失礼します」


 そう言うとヒメノを抱えて立ち上がると、肩や脇腹に激痛が走る。

 見てないから分からないが、もしかしたら骨が折れてるかもしれないな。

 どこか休めるところを探さないと。


「ちょっ! 待って! あなた達の親は!?」


「さぁ。僕が気づいた時には死んでました……本当に大丈夫ですから」


 その女性を振り切ろうと強引に進む。すると、腕を掴まれ進行方向とは反対方向に引っ張られた。


「いっ!」


 掴まれたところが丁度蹴られていたところだったため、声を上げてしまった。

 掴んでいる女性の方を少し睨むと。


 その女性は覚悟を決めた目をしていた。

 何を言われるのだろうか。

 今度は俺達を罵倒するのだろうか。


「あなた達、私のところに来なさい」


「そ、それは……」


 連行されるということ?


「そんな状態で放っては置けないわ。そして、私は魔法師団の団長よ。お金にも困ってない。あなた達くらいは養える」


「でも……」


「子供が遠慮するものじゃないわ! 行くわよ! ついてきて! 逃げても何処までも追いかけるわよ?」


 何処までも追いかけるとはなんとも恐ろしい事だが、それが本当に可能かは疑わしい所だ。

 でも、助けてくれたのは確かだし。

 魔法師団というと軍関係だろうか。


 軍関係ならば、その中にいた方がヒメノは安全だろう。であれば、この女性に一緒に着いていくという選択肢もありかな。

 

 このまま寝たきりだったなら、守ってもらっていた方が僕も動きやすい。なにより、安全に休める場があるならそれはヒメノの為になる。


「……ついていきます」


「うん! いい子ね!」


 とびきりの笑顔で手を引かれて歩いていく。

 大通りを人にチラチラと見られながら進んでいく。スラムから来たような子供をローブを着た魔法師団の人が連れていたら不思議にも思うだろう。


 しばらく女性について歩いていくと、大きな建物の前で立ち止まった。

 横にも縦にも入口が目の前にある。


「ここよ!」


 先程の女性が受付の人に何か話しているようだ。少し会話をするとこちらへ振り返り、帰って来た。


「空いてる部屋があるから行きましょ? 妹ちゃん、寝かせたいでしょ?」


「あっ、はい」


 案内されるがままに後をついていく。

 思わずキョロキョロと物珍しそうに色んな部分を見てしまう。

 部屋が色々あり人も沢山いる。


「あれ!? だんちょー! その子達は?」


「この子達は、これからここで生活するわ。私の子としてね」


「えぇ!?」


 えぇ!?

 僕達は養子にされるの……?

 急に親ができる?

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