水仙(Narcissus)

文重

水仙(Narcissus)

 カズヤは鏡に映る自分の姿にうっとりと見入った。高校を中退してから職を転々とし、歌舞伎町のホストクラブに落ち着いたが、結局これが天職だったらしい。その圧倒的なルックスで、あっという間にナンバーワンに上り詰めた。毎夜のシャンパンタワー、煌めくシャンデリア、甘い囁き一つで夢見心地になる女たち。


 出勤前、部屋を出るときに見せたユキの寂しげな顔がふとよみがえる。派手な女たちにも食傷ぎみになっていた頃に拾った、口紅一つつけない地味な女。チンピラに絡まれていたのを気まぐれで助けたら、そのまま居ついてしまったのだった。


 全身をブランド物で決めて出かける姿を冷ややかな目で見送られ、カッとして思わず手が出てしまった。家政婦代わりに置いてやっているのにと、舌打ちしながらカズヤは今宵も虚栄と虚飾の海に身を投じる。


 帰宅するとユキの姿はなかった。テーブルに用意された朝食の傍らで、一輪の白い水仙だけがじっとこちらを見ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

水仙(Narcissus) 文重 @fumie0107

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ