第8話 従魔契約

このコウモリどれだけ食うんだよ?


自分の体積の3倍以上の量の肉を食べたぞ

なに、魔獣って胃袋がブラックホールに繋がってるのか?


お腹がいっぱいになったのか、仰向けになって寝転がる黒まりもが2つ

無防備にも程がある


野生とはいったい…


「さて

風呂はいって寝るか」


服を脱ぎながら浴室に向かう

脱衣場で下着を脱いでいると、慌てて黒まりもが追いかけてきた

肩に乗ろうするが…残念

今は真っ裸だから掴む場所がない


ツルツル滑って慌てる2匹を捕まえて洗面台に乗せる


「風呂入るだけだからそこで待ってろ」


…いや、なんで震えてるんだよお前ら…


またプルプルし出した


今まで余程怖い目にあってきたのだろうか

俺も出会い頭に食べるか考えていたと思うのだが、一緒に居たがるなんてさっきの事を忘れたのか?

それか無害だと思われたのか


「一緒に入るか?」


手を差し出すと、また直ぐに乗ってきた


よく見るとまだ砂埃やら肉汁やらで汚れていたのでちょうどいい、洗ってやろう


石畳に胡座をかいて座り、風呂桶に湯を張って足の上に置いた

つま先からそっとお湯に浸すが、びっくりしたのか足を引っこめる


「怖がらなくても、お湯で汚れを落とすだけだからな

じっとしてろ」


ちゃぷちゃぷと少量ずつお湯を体にかける

怖くないと分かると楽しくなってきたのか、足の指を開いたり閉じたりして気持ちよさそうにしている


ふっ…と自分の口元に笑みが浮かぶのが分かった


この世界に来てから、初めてまともに笑った様な気がする


「そうだ

区別出来るように名前でもつけるか」


あれ

心無しか目が輝いて見える

気のせいか?


名前…名前か


「そうだな、失禁ツインズの右と左、とかどうよ?」


あ、こいつら思いっきり拒否しやがった

もげそうなぐらい首を横に振ってやがる


「名前付けるの苦手なんだよなぁ…

あ!

じゃあよくピルピルプルプルしてるから

右が《ピル》

左が《プル》

これで決まりな」


え、またイヤ?

ワガママは許しません


「お前たちはピルとプル

合わせてピルプルな」


眉間が寄っているように見えたが、渋々といった感じで首を縦に振る


「よし」


名前も決まった事だし、洗うのを再開する


肉汁が毛に絡みつきお腹の汚れが酷いので、ピルプルが痛くない程度の強さで擦ってやった

ピルがモゾモゾと動いている


「どうした

どこか痒いのか?」


指でダマになった毛をほぐしながら聞いてやる


すると



『くすぐったいです、ご主人様ぁ』



…ごめん


正直、驚いて握りつぶしそうになった

確かに今、ピルの口が動いていた


『ボクは耳の後ろが痒いですー!』


今度はプルの口が…

マジか


「お前ら、喋れたのか…?」


『違いますぅ

話せるようになったんですぅ』


「は?

なんで?」


『ご主人様が名前を付けてくれたからですー

ボク達がそれに承諾したので、従魔契約が完了したんですー』


え…


従魔契約ってなんだ!?





どうやら、ピルプルと知らず知らずのうちに契約を結んでしまったらしい


ピルプルに聞いたところ、従魔契約をするとどちらにも利点があるのだそうだ

頭の中で話せる念話が使えたり、一部だがスキルを共有したり、得られる経験値が増えやすいのだという


あれか、共生みたいな感じか?


因みにピルのステータスがこれ


------

【名前】ピル

【種族】クロヘラコウモリ

【年齢】1歳


Lv.1/30


HP:10

MP:10

力:5

魔力:10


共有スキル


下級魔法

------

プルも上に同じだった


いつの間にか2匹の瘴気(小)が消えていた

それと、何故か素早さや運などのステータスがなかった

獣人はあったのに…魔獣なのが関係しているのか?


あと契約した時にLv1に戻ってしまったらしい


ステータス、全体に低すぎだろ…

これじゃワームとかと戦えないだろうな


とりあえず明日、結界の内側から攻撃させてみるか



「ふぁー

風呂も入ったしもう寝るか」


ピルプルを布で拭きながら寝室へ

ベッドに腰掛け、ピルプルをタオルドライでよく乾かしてやると、洗ったことによって毛がフワフワになった

ただイーサン達と同じで骨が浮くほど痩せているうえ、毛並みがよく無かった


「ガリガリだな…

大丈夫なのか?」


お腹を撫でてから頭も撫でると、2匹とも嬉しそうにギュッとしがみついてくる


『大丈夫ですぅ』


いや

飛び方もフラフラしているし、明らかに大丈夫そうではないと思うのは俺の気のせいか?


『今日は良い日ですぅ!

生まれてから今まで、こんなにご飯をお腹いっぱい食べた事はなかったですぅ』


「そんなに食べ物がないのか?

この辺りは」


『大昔はここ一体が森だったので食べ物はいっぱいあったんだって、長生きしてる老獣が言ってたですー

でも今は木が無くなって砂ばかりで、食べられるのはサボテンや小さな虫だけになったらしいんですー!』


『でも、最近ではそれすらも見つけるのが困難で、食べられない日の方が多かったですぅ』


なんだろう


本人、いや本獣か?

いたって明るく話をしているが、聞いているこっちは泣きそうなんだが…


「そうか

でも今日からは飯の心配はしなくて良いぞ

今はトカゲとワーム肉しかないが、それでも腹いっぱい食わしてやれるからな

安心しろ」


『やったぁ!』

『お腹すいたー!』


いやいやいや

さっきおかしい量を食べてただろ


「流石にそれ以上食べたら吐くぞ」


『Lvが下がったので、体が元の体力に戻ろうとするのですぅ

でも普通の食べ物だけだと魔力とかが足りないのですぅ…』


あれか

急激にダイエットした時とかに、体が体重を元に戻そうとするみたいな

世にいうリバウンドってやつか

理解した


「なるほど」


『だからご主人様ぁ』

『ご主人様の魔力くださいー』


魔力?


「魔力って…従魔にどうやるもんなんだ?」


『ご主人様ぁ』

『ちゅーしてくださいー』



…………………は?



『体液に魔力が混じっているのですー

なのでちゅーしてくださいー』


「…マジか」


今世のファーストキスの相手がまさかのコウモリって…


まぁそれは別にどうでもいいんだが


魔獣じゃカウントされないしな、多分


『ご主人様ぁ…』

『お腹すいたー…』


こちらを見つめながら

目に涙を溜めてうるうるしている


それは…ズルくないか…?

断る難易度高すぎだろ…


ペットを飼ったら、責任を持って最後まで面倒をみなければならない

誰が言ったか忘れたが、頭にその言葉が過ぎった


「ふぅ…」


キスくらいなんだ

腹を決めた


ピルプルを唇の近くまで持ち上げる


「…ほら

さっさと吸え」


『ご主人様ぁ』

『これだと体液が吸えないので

舌を出してくださいー』


「うっ…」


口を薄く開いて、ほんの少しだけ舌を出した

ピルプルが顔に手をついて、口を近づけてきた


ちぅちぅちぅ…


静かな部屋に、唾液を吸う音だけが聞こえる


俺の頭の中では、早く終われコールが鳴り響いているが


ちぅちぅちぅちぅ…


…なぁ、これ何時までやらないといけないんだ?

かれこれもう5分は経っていると思うのだが


下を見ると、ピルプルがウットリしたような顔でまだ吸っている


うん

もう良いだろ

舌を引っ込めた


『もう終わりですかぁ?』

『早いですー…』


早くねーよ!

口開けてたからか、舌が乾いちまったわ!!



もっともっとと手を広げて催促する2匹を俺はスルーした

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