少女は続く~担任への恋と(ほぼ)モノローグ~
水本エイ
少女は続く
「皆さん、卒業おめでとう」
卒業式のあとのホームルーム。これで終わり。
何がめでたい。マミちゃんのスピーチを聞きながら思う。
ずっと好きだった。なのに、私の感情は無かったことになる。今日で。
どんな想いも、言葉とか、行動とか、何でも良いけど、形にしないと、無かったことになる。
「明日から、皆さんは別々の道を歩むことになるけれど、ここでの出会いをずっと大切にして欲しいと思います」
クラス全員に向けた、判で押したような言葉。まるでただの担任みたい。いや、マミちゃんは担任ではあるし、皆からも人気者だから、全く問題ないのだけど。
マミちゃんの魅力はこんなんじゃない。いや、魅力とかって言うとおかしいけど。
少なくとも、私と2人でいる時は、私に真っすぐ向けられた言葉をしゃべってくれた。
2人きりって言っても、「体育祭で大きなけがをした時に、近所の病院まで車で送ってくれた」とか「たまたま日曜日ユニクロで会った時に、近くの〇タバのフラペチーノを奢ってくれた」とか、その程度だけど。
だから、時間にすれば、数十分でしかないかもしれない。だけど、私にとっては永遠だ。永遠に頭の中にいる。永遠に私と会話をしていた。
「瞼の裏にはあなたがいます」みたいな歌詞は、あながち間違っていないもかもしれない。そんなの病気じゃないかって思っていたけれど、そんなことは無かった。私が病気なのかもしれないけれど。
現に、自分の卒業式なのに、ずっとマミちゃんのことだけを考えている。「皆と離れ離れになってしまうのは悲しいね」なんて想いは、1ミリもない。もちろん、だから、涙なんか出ない。
クラスメイトには何の感慨も無い。薄情だと言われればそれまでかもしれないけれど、私の青春時代は、マミちゃん一人で全て説明できてしまう。
だけど、今日何もアクション出来ていない辺り、私の限界を思い知る。
子どもであることに、甘んじている。
===
卒業式のあとは、皆友達と一緒に打ち上げに興じる。ちなみに、「打ち上げ」というのは、平安時代の雅楽の演奏で、「太鼓を打ち上げる」ことから来ているらしい。要は、演奏の区切りを表すことから、物事が一区切りついた時に使われる言葉に転用されたらしい。
これもマミちゃんが古典の時間に言っていたから覚えたことだ。そして私の高校時代の、一区切りつくことなく、ガラガラと、青春ゾンビになっていく。。
「高原さん、ちょっといいかしら」
2割くらいゾンビの私を、マミちゃんが呼びかける。
「あっ、先生…どうしたんですか…?」
ちなみに、リアルで「マミちゃん」とか「マミちゃん先生」などと呼んでいる訳では無い。呼べるはずもない。ハハハハハ、頭の中では完成されているのに、私の青春時代は…。
「高原さん、そうだ、まずは卒業おめでとう」
くっそう…あざとい…こんな不意に「おめでとう」って言われるなんて…さっき「何がめでたい」って言ってしまって大変申し訳ございません。
マミちゃんは初任で私たちを担当したから、そう歳は変わらない。たかだか7歳くらい?いや、たかだかって言うなら、超えてみせろよ。
マミちゃんはメガネをかけているけど、「いや絶対外した方が美人ですって~」とクラスメイトは良く言っている。私だって、脳内で500万回言っている。
「あのさ、来週の水曜日って学校来れるかしら?旅行とか予定あって難しい?」
「えっ、あっ、空いてます。大丈夫ですよ、この学校ですか?」
不意だった。
「そうそう、あ、全然制服じゃなくていいから。あのね、来年は2年生、っていうか今の1年生を見ることになるんだけど、ちょっと教材の相談したくて」
「それは、、私ですか?」
「私ですか?」という言葉で、いつも逃げてばかりいるけれど。
「うん、そう。高原さん、私の古典の時間、いつも黒板見ててくれている印象があったから、高原さんが2年生に上がる時くらいの教材とか理解度知りたくて。来年の授業作る時の参考にしたいの」
「私ですか?」という言葉で、いつも逃げてばかりいるけれど。
「わ、私で宜しければ、ハイ、昔の教材もまだあると思うので…」
選ばれることには慣れない。受験だって正直上手く行かない部分も多かったし、何か大会に出て表彰されることも経験が無いし。
「ありがとう!だって、私高原さんに向けて授業していたようなもんなんだもん。皆に向けてなんて、疲れちゃうからね。あ、これあんまりベラベラ皆に喋らないでね」
くっそう…あざとい…(2回目)
選ばれることには慣れない。だけど、知らない間に、私なりに選んで、ここまで来れたとするのならば。
「わかりました。大丈夫です。暇ですし…」
そっけない態度で、私は選び取る。
少女は続く。
少女は続く~担任への恋と(ほぼ)モノローグ~ 水本エイ @mizumoto_h2a
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