第14話
そこで……。
「あっれぇ?」
ポツリと、間の抜けたつぶやきをする者がいた。
「今、『魔王を封印して、右目を奪った者』……って言ったぁ? えぇ? でもそれだとぉ、魔王から右目をとったのってぇ……昔の勇者ってことじゃねぇ?」
ニ位パーティ魔導師のハルだ。
「あ……」
「……うむ」
「そ、それって……」
次々と、同じことに気付き始める一同。それと同時に、彼女たちはその「気付き」の中心とも言える「勇者」の方に、視線を向ける。
「グァ……?」
魔王も、対戦相手たちのそんな行動に何かを感じ取ったのか、攻撃の手をとめる。
「そ、そうよ!」
アレサも、目を輝かせてその話題の中心の「勇者」……の末裔である、オルテイジアに駆け寄った。
「オルテイジア! 魔王から右目を奪ったのは、貴女の祖先の、昔の勇者パーティだったのよ! 貴女、祖先から何か聞いてないの⁉ 四代目魔王を封印したときに獲得した
オルテイジアに問い掛けながら、何かを思い出していくアレサ。それと同時に言葉は途切れ途切れになっていく。
「あ、あれ……? 紫色の……宝、石……? 勇者が……代々受け継いできた……勇者専用の……アクセサリー……って……」
完全に何かに気付いた様子で、ジト目になって鎧姿の「オルテイジアの首元」を見つめる。
しかし、当のオルテイジアはまだ全然分かっていないらしく、そんなアレサをあざ笑うような表情を作る。
「おいおい、どうしたんだ? 急に取り乱したりして? まさか、せっかく見せ場をやったというのに、やっぱり勇者の私の力がないと何も出来ないー、なんて泣きつくつもりじゃないだろうな? そんなことでは、姫を守ることなんて出来ないぞ? はあ……。仕方ない。ここはやはり、勇者の私がバシッといいところを見せて魔王を倒してしまって、それを見たウィリア姫も私に惚れ直して……」
そんなどうでもいいことを口走っているオルテイジアを無視して、
「……ふんっ!」
アレサは、彼女の首元に手を突っ込み、そこに掛けられていたアクセサリー――以前彼女と戦ったときにアレサの呪術を無効化した、紫色の宝石のような飾りがついたネックレス――を乱暴に引きちぎった。
「なっ⁉ ア、アレサ貴様、いきなり何をするのだっ⁉ 前も言ったようにそれは、四代目勇者から代々引き継ぐ大事な物で……あらゆる状態異常を無効化できる、勇者専用装備だぞっ⁉」
激しく反発するオルテイジアは相手にせず。アレサは、奪い取ったネックレスの紫色の宝石を魔王に見えるように掲げて、尋ねる。
『もしかして……これ?』
呆気にとられていた魔王はそれまでの威厳のある様子を完全に忘れて、
『あ、うん……それ』
と、答えた。
「はあ……」
アレサは、大きくため息をついてから、その紫色の宝石……「魔王の右目」を、本来の持ち主に返す。受け取った魔王は、それを、さっき赤い宝石を外した右目にはめ込んで、
『うむ……落ち着く。これで、また百年は眠っていられそうだ……』
と言うのだった。
「か、返せーっ! そのアクセサリーは、勇者である私の物だっ! それを持つようになってから、毒や麻痺はもちろん、風邪をひくこともなくなったし……ずっと悩まされていた便秘も解消されて……すごく調子が良くなったのだぞ! しかもそれだけじゃなく、煮込み料理のときに鍋に一緒に入れておくと食材の苦味もなくなるし……宝石の割に意外とプニプニしていて、暇なときとかに針でつつているとストレス解消にもなって……それは、他のどこにも売っていない激レア健康アイテムなのだぞーっ⁉」
空気を読まずにそんなことを言っているオルテイジアに、二位パーティ魔導師のハルが、
「おい、煮込んだり針でつついたり、って……完全に、魔王がキレてた原因のやつじゃねぇかよ。魔王が人間襲ってたのって結局全部、こいつの先祖と、こいつのせいじゃん……」
という、その場の誰もが思っていたことを口にしてしまうのだった。
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