第9話
あと、一秒の十分の一にも満たないほどの一瞬の間に、この勝負は決着する……というところで。
「うん……。多分、これでオッケかな……みんな、ありがとね」
ずっと僧侶ナンナのアイドルソングにギター伴奏を合わせていたエミリが、その指運びを止めて、そんなことをつぶやいた。
すると、
「……よかったです」「……うむ」
レナカとスズが、さきほど急に行動を開始したときと同じように、その超スピードを突然停止した。
レナカの刀とスズの拳は、魔王の体にヒットする紙一重のところで止まっていた。あともう一瞬でも遅ければ、それが魔王の急所を捉えて、その命を奪っていただろう。
つまり、人類側の勝利が確定し、魔王が倒されて平和な世界が訪れていたはずだったのだ。しかし、彼女たちはそれを選ばなかった。彼女たちの最終目的は、「魔王を倒すこと」ではなかったから。
その証拠に……すでに元の場所まで戻ってきていたレナカたちは、もう戦闘態勢を解いている。イアンナの付与術もその役目を終えたのか、次々と解除されていく。
「な……何を……?」
アレサには、彼女たちのその態度の理由がわからない。
「あ、貴女たち……一体、何をしているの?」
「……アレサ」
そんな彼女に、
「『何をしている』じゃなくって……『しようとしている』だよ? だってここからが、本当にあたしたちがやりたかったこと、なんだからさ……」
ギターを置いて、歩き始めた転生者エミリが言った。
「あたし……ちょっと前にあんたとウィリアと戦って、あんたたちの覚悟を聞いたとき……」
一歩、また一歩と、歩いていくエミリ。後衛から前衛、さらにはその先に進んでいく。
「正直……最初はあんたの言ってたこと、全然意味わかんなかった。自分たちが負けちゃうかもしれないのに、魔王とはなるべく公平に戦いたい……なんて。それこそ、何回も普通にクリアしたあとで、やりこみ要素の縛りプレイでやることでしょ? 初見でやることじゃないでしょ? ……って感じで。正気じゃないと思った……でも、」
エミリは、今では誰よりも最前線――魔王の眼の前まで――に来ている。いくら『
だがもちろん……彼女たちが「事前に打ち合わせてきた内容」に照らし合わせれば、そのエミリの奇妙な行動は計画通りなのだった。
魔王と対峙するエミリ。視線は魔王に向けながら、アレサに話し続ける。
「ズルい『
そこで……。
さっきニ位パーティの前衛二人に追い詰められて放心状態という様子だった魔王が、正気を取り戻した。
そして、ミョルミョルによって動かせなくなっていた右手の代わりに、左手で攻撃をしようとした。
そのターゲットは、もちろん一番近くにいるエミリだ。
「……っ」
だが、そもそも彼女が今までそんな態度でいられたのは、どんなことが起こっても『
しかし実は、アレサと本音でぶつかり合ってから、エミリは自分の能力の使い方を少し変えていた。彼女はあれ以来、「自分と、その仲間だけが有利になるような能力の使い方」はしないようにしていたのだ。
もう二度とズルい方法で『
「エ、エミリ! あ、危ないから、下がって……!」
アレサが、そんなエミリを心配して当然の言葉をかける。
しかし……。
「アレサっ!」
エミリが、それよりも強い意志を込めた言葉で、それを遮る。
「さっき、イアちゃんが言ってたでしょっ⁉ あんたがこれまで、あたしたちのことを分かってくれてたみたいに……。あたしたちだって、あんたのこと分かってるんだよ! あんたがどんな人間か……あんたが本当は、どんな
迫ってくる、魔王の左手。その距離はどんどん近づいてくる。もう、非戦闘員のエミリでは避けることは出来ないだろう。
しかし、彼女は動かない。
「あんたが望んでいることは、ただ魔王を倒すことじゃない! ズルなしの本気の全力でぶつかって、後腐れなく勝敗をつけること……でもない! あんたが本当に望んでいること……あたしたちをここまで引っ張ってきてくれたあんたが、ここで本当にやりたかったこと……。他の誰でもないあんたならきっと出来るって、あたしたちに信じさせてくれたもの……それを叶えてあげるために、あたしたちはここに来たんだよ! あんたの
「エミリ……?」
「さあ、始めるよっ⁉ ついさっきまで何度も何度も魔王戦を
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます