第7話
それからも。
イアンナは、呪術師ミョルミョルを始めとした二位パーティたちを、的確に付与術でサポートしていた。
もちろんそれは、かつてアレサたちのパーティにいたときのような、彼女が独断で付けたり外したりしていた勝手な行動ではない。天才付与術師の才能を完璧に把握して、信頼して、それを取り込んだニ位パーティの、作戦の一部だ。彼女をパーティの一員として認めた、紛れもないチームワークの証だった。
一方、勇者オルテイジアは、魔王が絶え間なくアンデッドを作り出すのに対して、『光の力』で応戦していたが……その度に『自分の邪な心』でダメージを受けて吐血して、敵の攻撃は一度も受けていないのに瀕死状態。
そのたびに僧侶ナンナから神聖魔法で回復してもらい、魔導師ハルからは「もう、そんなやつ放っときなよぉー」とあきれられていた。
若干一名の、ギャグキャラに成り下がってしまった勇者はいたが……。
それでも、その場はラスボス戦と言うにふさわしい緊張感に満ちた戦いが繰り広げられていた。
完璧なチームワークによるコンビネーションで、畳み掛けるニ位パーティたち。
一方の魔王は、自身の圧倒的な破壊力と、強力な闇の魔力によるゴリ押し。だが、それは単純であるがゆえにスキや弱点がなく、一筋縄ではいかない。オルテイジアの『聖なる光』で瞬殺出来るアンデッド軍団も、単純に数が多すぎるせいで浄化が漏れてしまうことも増えてきた。
まさに、本気対本気の戦い。
戦闘力は互角で、どちらが勝ってもおかしくなく、どちらが負けてしまっても文句は出ない。
それでも……。
長期戦になれば、やはり魔王城というホームで戦っている魔王の方に、少し
ここは、魔王が根城にするだけあって他の場所よりも闇属性の力が強くなっている。存在自体が闇の化身のような魔王にしてみれば、ここにいるだけで永続的な
しかも、物理的な壁くらいにしかならないとはいえ、アンデッド兵を作り出すのも
魔王としては、体力や魔力切れを心配する必要がある人間たちが相手なら、リスクを取ったりせずに現状維持をしているだけで勝機はやってくるだろう。
そんなことを考えていたのかは分からないが……。
クフゥー……。
魔王が、またそこでこれまでとは違う表情を見せた。
それは、あえて言うなら……自分の有利な状況に余裕ぶっている表情……といったところだろうか。
「そろそろ……いける、かな」
その表情を見た転生者のエミリが、そんなことをつぶやく。
そして、ちょうど曲と曲の合間になって水を飲んで休憩していたナンナにチラッと視線を送ってから……これまでよりも、数段激しいテンポのギターリフを演奏し始めた。
それを聞いたナンナは慌てて水を置いて、
「今日はこの
と叫んで、今までのかわいい系から一変した、かっこいい系の激しいダンスを始めた。
それを合図にして、
「は、はい!」
「ついに……」
「……っしゃぁ!」
付与術師イアンナ、サムライのレナカ、魔導士ハルが、それまでやっていた行動を中断して、魔王から一旦離れる。
「ふむ……いいだろう」
「だぎゃ?」
勇者オルテイジアと呪術師ミョルミョルも、同じように他のメンバーのもとへと集合する。
どうやら彼女たちは、ここにくるまでに事前に何らかの「打ち合わせ」をしてきたらしい。
当然その内容を知らないアレサとウィリアだけが、何が始まるのか分からず、何やら自分たちの周囲に集まり始めている彼女たちをキョロキョロと見回していた。
そして……。
「…………ゆくぞ」
アレサたち以外の全員の準備が出来たことを確認した格闘家スズが、そんなことを言ってから……、
「七曜拳……
という掛け声とともに、自分の両方の手のひらを激しく叩き合わせた。
パァーンッ!
それは、一見するとただの
ただし、相手の目の前で手を叩いてスキを作るだけの「猫だまし」と比べると、その効果には雲泥の差がある。格闘の達人のスズが放ったそれは、手を叩いた音が空気の振動となって周囲に伝わると同時に、その音を聞いた者の脳にも強い振動を伝えた。
スズの卓越した戦闘センスによって生み出された固有の振動数に脳を揺さぶられた者は、一定時間その脳神経が麻痺して、思考が停止してしまう。
結果として……その音を聞いた誰もが身動きがとれなくなり、まるで、その「猫だまし」をきっかけとして「周囲の時が止まった」ような状態になってしまうのだ。
ただし……。
「はあっ!」
オルテイジアが『聖なる光』を放って、残っていたアンデッドたちを一掃する。
「イアンナ!」
「は、はい、いきます!」
レナカの指示のもとに、イアンナが付与術を有効化する準備を始める。
事前の打ち合わせによってスズの技が来ることを知っていた彼女たちは、その直前に耳を塞いでいた。
更に、魔導師ハルが地震の魔法の応用で、彼女たちの周囲にだけ「猫だまし」とは逆位相の振動を起こしていたので、「時を止める」効果を無効化して普通に動くことが出来ていたのだ。
もちろん。
その「時を止める」という効果は、最終目的ではない。その
その、目的とは……。
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