第6話

「次は、私です!」

 今度は、二位パーティリーダーでサムライ少女のレナカが居合の構えを取る。


「ぜひ、最凶と呼ばれる魔王と手合わせ願いたいと思っていたのですよね!」

 真面目な彼女にしては、少し好戦的過ぎるセリフな気もするが……。やはり一流の剣豪として、ラスボスの魔王相手に自分の腕がどこまで通用するのか、確かめてみたいということらしい。


 今の彼女がしていたのは、立ち居振る舞いだけで「存在しない刀」を存在すると思い込ませる達人技――不刀流――の構え…………かつてアレサたちに見せたそれを、更に一段押し進めたものだ。

 今回は、刀どころか「彼女自身」を「もう一人いる」と思い込ませることで、「実在しない自分の分身」を作り出して攻撃する奥義……『不我関ワレカンセズ』という技を繰り出そうとしていたのだ。


 しかし……。


「あ、それ! 私も出来るよーっ!」

 そこで突然、ウィリアが飛び出てきて、レナカの隣にやってきた。

 彼女は、アレサほどには深く物を考えない性格だったので、すでにこの状況を受け入れてしまっているようだった。


「は、はぁっ⁉」

 当然、意味の分からないそんな行動に、レナカは戸惑う。

「ちょ、ちょっとウィリア姫⁉ 何言ってるんですかっ⁉ あ、危ないですから、下がって下さい!」

「だいじょぶだいじょぶー」

「いや……っていうか普通に邪魔なんですよ!」

 言いつつも、レナカは自分の攻撃のモーションを崩せない。

 下手にここで攻撃を中断してしまうと、「存在しないもの」の説得力が失われて、今後全ての不刀流が成立しなくなってしまう。

 それだけ、「存在しないもの」を「存在する」と思い込ませるだけの凄みを出すのは、デリケートで難しいことなのだ。

 だから彼女は、いきなりウィリアが出しゃばって来ても、そのまま自分の技の続きをするしかなかった。

 結果として……。


不刀ナントカ流奥義ぃー……」

 刃が折れてツカだけになった剣を構えて、超適当なモノマネをしているウィリアと、

「ふ、不刀流……奥義……」

 どうにかいつもの調子を取り戻そうとしているレナカが……二人並んで、同時に技を繰り出すことになってしまい……。


「ワ、ワレ……「オニギラズッ!」⁉」

 ウィリアにつられる形でレナカは、「ウィリアが適当に考えた技名」を叫ぶことになってしまうのだった。



 本当なら、そこでレナカの体から「存在しないもう一人の彼女の分身」が飛び出してきて、魔王に斬りかかるはずだった。だが……やはり調子を狂わされたことで、レナカの技は想定した通りにはならなかったらしい。

 二人並んで居合抜きのポーズをとったレナカとウィリアの手元から、「存在しない極太のこん棒」のようなものが現れ、魔王の頭をゴチンと叩いて、すぐに消えてしまった。


「わーい、出来た出来たー」

 ちゃんと「存在しない武器」による攻撃に成功して、ウィリアは満足げだ。

「ね、出来るって言ったでしょー? さっきの、だいたい合ってたよねー?」

「全然違いますよっ⁉」

 一方のレナカは、自分のペースを崩されてしまったのが、明らかに不服そうだ。

「っていうか、今の何ですか⁉ あんまり混乱させるから、私も知らない変な技が出ちゃったじゃないですか⁉」

「えー、そうなのー? ……じゃ、あれだ! 新技だー⁉ 二人の合体技だー!」

「……ああ、もう! 何でもいいですよ!」


 結局、その技はグタグタにされてしまい、レナカはもう魔王と手合わせするのを諦めるしかなくなる。

 優等生の学級委員長的なレナカと、適当過ぎるお調子者のウィリア。二人は、意外といいコンビになりそうだった。




 また、別のメンバーたちは、といえば……。


「ウィ、ウィリア姫と……『合体技』、だとっ⁉ アレサだけでなく、あのサムライ娘まで姫にちょっかいを出して…………ゆ、許せん!」

 レナカとウィリアの会話を盗み聞きしているオルテイジアが、血が出るほど唇を噛んで、ワナワナと震えている。


 そんな彼女の隣で、呆れるような視線を送っているのは、ニ位パーティの魔導士ハルだ。

「はぁーあ。これが本当に伝説の勇者かよ? これだったら、お姫様の偽物勇者のほうが、まだマシだったっつーの」

 彼女は、チラリと魔王の方に視線を向ける。


 ウゴォォォォー……。


 ちょうどそのとき、魔王が次の攻撃に移っていた。またさっきのように、大地に眠るアンデッドモンスターを呼び出したのだ。

 しかも今度は、さっきアレサたちが倒した冒険者の死体ではなく……その冒険者に倒されてきたモンスターたちの死体を使って、ドラゴンゾンビなどのアンデッドモンスターを作ったらしい。

 もちろん、その強さはさっきの冒険者アンデッドと比べても、遜色そんしょくない。


「ほらほらぁ、出てきたよぉー? アンデッド倒すのは、お得意なんでしょぉー? 例の『光の力』ってやつで、チャッチャッとやっつけちゃってよぉー?」

 魔導士ハルはオルテイジアをけしかける。

「な、何だその言い方は⁉ この、由緒正しき勇者に向かって……!」

「唯一の取り柄なんだから、ケチケチすんなよぉー」

「くっ! ウィリア姫にお願いされるのならまだしも……なんで私が、こんな小娘の命令に従わなければならんのだ!」

 反発するオルテイジアだったが、今が戦闘中だったことを思い出して、渋々右手を天に掲げる。


 そして、

「邪な魂に縛られた者たちよ! 勇者の聖なる光によって、その呪縛から解き放ってやろう!」

 と、仰々しく叫んだ。


 すると、以前のようにその右手に勇者の紋章が浮かび、『聖なる光』が放たれて……現れたアンデッドモンスターを一掃してしまった。

 相性の問題とはいえ、さっきアレサとウィリアがあれだけ苦戦していたことが、嘘のようだ。


「お、おぉー! やるときはやるねぇー⁉ やっぱ、伝説の勇者様は違うなぁー!」

 と、さすがにハルも、オルテイジアのことを見直した……と、思ったら。


「が、『合体技』……ウィ、ウィリア姫と、『合体』……ぐふ……ぐふふ…………ぶぼぉっ!」

「……」

「が、合体…………ごばぁっ! ウィリア姫と……は、裸で……が、が、がった…………ぐはぁぁぁぁーっ!」


 相変わらず、自分の『光の力』でダメージを受けるくらい『邪な考え』を持ってしまって、勝手に瀕死になってその場に崩れ落ちるオルテイジア。

「はぁ……やっぱダメだこいつ」

 結局、ハルの中でオルテイジアの評価は落ちるところまで落ちきってしまうのだった。




 一方、そんな前線からは少し離れた場所で、仲間に回復魔法を使ってサポートしていた僧侶のナンナは……といえば。


「ということで、そろそろアンコールも折返しだけどー……みんな、まだまだ声出せるよねー⁉ ここからはラストスパート、もっともぉーっと盛り上げていっくよー⁉ …………聞いてください、今日のための新曲です……『魔王色キミイロエンパシー』!」

 と、当たり前のように、相変わらず必要性がわからない歌とダンスをしている。

 更に、その隣では、

「ヤッバ⁉ アイドルソング完全にナメてたわ! このサビのメロ、マジエグいじゃん⁉」

 その曲に、ギターのような楽器を合わせている、吟遊詩人のエミリの姿もあるのだった。

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