第10話
「エミリ……貴女は今日ここに、私たちを止めるためにやってきたのよね……? 私たちがこれから、魔王戦に向かうのを無謀と思って……。いつもの貴女らしい優しさで……それをやめさせるために、ここにやってきた……」
はぁはぁ、と苦しそうに息をしながらアレサが言う。
「そ、そうだよ⁉ だ、だからあたしは、その目的のために……自分を危険にさらしてでも『神々の悪戯』の剣を振り続けてたんだ! それくらい、あたしは二人のことが心配で……」
すでに何の意味もない建前の言葉を叫ぶ。それがウソだってことは、『
「だったら……」
アレサはささやくような音量で、あたしの叫び声を遮る。
そして、彼女が気づいた「あたしのミス」を言った。
「だったらどうして……『まずは話し合いで説得』しようとしなかったの?」
「え……」
「私がクビにした三人の中でも、最後にパーティに入ってくれたエミリとは一番付き合いが短かったけれど……でも、貴女の性格は分かっていたつもりよ……? 貴女はいつも明るくて、余裕があって、冗談ばかり言っているようなムードメーカーで……でも、その心の奥には確かに、自分以外の人の気持ちを思いやれるだけの、優しさがあった。一見チャラチャラとして見える行動も……仲間を楽しませようとしてくれていたから。仲間の幸せのためなら自分の苦労はいとわないような優しさが、貴女にあったから。私にとってのエミリは……そういう人だったわ……」
「ア、アレサ……」
急に思いもよらない言葉をもらって、一瞬、胸の奥がむず痒いような気分になる。でも、それはすぐに今の状況の緊張感で消し去られてしまう。
「そんな優しい貴女が……『問答無用の力づく』で、私たちを止めようとした……。私たちの話も聞かず、いきなり戦いを挑んできた……。そんなの、おかしいわよ……。他人を思いやれるはずの貴女が、最初から話し合いではなく、そんな乱暴な方法を選ぶわけないわよ……。そんな可能性は……百分の一のギャンブルに何十回も勝てる可能性よりも、もっと低い……。絶対に、ありえないことよ。だから私、気づいていたの……はじめから……。今日、貴女が私たちの前に現れて、戦いを挑んできた、あの瞬間から……。貴女は、『今の私たちが知らないところで、すでに何度も私たちのことを説得している』ってこと……。貴女はすでに『今日』を何回も繰り返していて……『今の私たちにはどれだけ説得しても無駄だ』って分かっているんだ、ってことを……」
そ、そうか……。
アレサが言ってくれた「あたしの優しさ」が、本気の言葉なのかは分からない。(本当にそう思ってくれていたのだとしたら、すごく嬉しいけど……)
でも、そうじゃなかったとしても。
普通に考えて、アレサたちが魔王と戦わないようにしたいのだったら、まずは「言葉で説得してみる」のが自然だ。いきなり力づくで言うことをきかせようとするなんて、不自然すぎる。
実際に、あたしは最初の百回くらいのループでは、なんとかしてアレサたちのことを説得しようとしていた。平和的に言葉で分かってもらおうとしていた。
今回のループで戦いを挑んだのは、その百回が全部失敗してしまったから。『説得は無駄』だということを、知っていたからだ。
そんなあたしの不自然な行動がヒントとなって、アレサにあたしの『
……はあ。
そこであたしは、小さくため息をついた。
今も、息も絶え絶えって感じのアレサの前で、そんな態度は少し感じが悪かったかもしれない。出血多量で意識を失って倒れてしまいそうな友だちに対して、不誠実な態度だったかもしれない。
……でも、別に構わないでしょ。
どうせ、このループはもう『捨て回』なんだし。
アレサが『
何度も今日を繰り返して最良の選択肢を選べるのは『
あまりにも完璧に『最短距離の近道』を選べすぎちゃって、それきっかけで『
……だったら。
次のループでは、わざと無駄な行動をすればいいだけだもんね。
意味ないと分かっていても、とりあえず形だけでもアレサたちを説得するような振りをして……それから戦いを挑めばいい。説得するのは無理だって分かったふりをしてから戦いを挑めば、もうアレサがあたしの『
まあ、せっかくウィリアを無力化して、アレサに剣を当てられる
でも、仕方ないよね。
「エミリ……」
アレサがまだ何か言おうとしていたみたいだけど、あたしはもうあまり聞いていなかった。
アレサが『
でも……。
「実は……私が今、貴女に一番言いたいのは……貴女が『時間を戻せる能力』を持っていること……それ自体じゃないのよ……」
あたしは、さっき途中だった左手のポーズと呪文を再開する。転生の女神が勝手に決めた、例の恥ずかしいやつ……『時間を戻す』スキルを発動するためのポーズと呪文だ。
「だ……」
でも……。
「私が言いたいのはね……エミリ。どうして貴女が、時間を戻せる能力のことを、いままでずっと私たちに黙っていたのか、ってことの方なのよ……」
「だ、だ……」
「その理由は……多分、貴女自身もよく分かっているはず……。その『能力』が、どういう性質のものなのか……。だから貴女、さっき『時間を戻す能力』のことを、
「……だる・せーにゃ」
……………………………………………………
あ、あー……。
アレサ、まだなんか喋ってた? ごっめーん、全然気づかなかったよー。
喋ってる途中で戻っちゃうとか、ちょっと、お行儀悪かったかなー? ……ま、まあ、でも? 別にいいよねー?
無事に時間は戻って、さっきのことは、どうせもう誰も覚えていなんだからさー。
さ、さーてと……じゃあ、さっき分かったことを考慮して、またイチから……むしろ、こういうときは「ゼロから始める」とか言ったほうがいいんだっけ?
と、とにかく、今度こそはアレサとウィリアを助けるぞー⁉ 絶対に、二人に魔王戦を諦めてもらうんだからー!
改めて気合を入れ直したあたしは、最初のときと同じように、ラストダンジョン中腹のボロ小屋でアレサたちを待ち構えた。
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