第8話
百種類の効果がランダムで現れる『
あたしは一度でもアレサに剣を当てることができたら、あとは目当ての効果を引くまで、何度でも時間を戻すことが出来る。そして、たった今あたしはそのルートを見つけたわけだから、あとはもう『獣化』が出るまでこのルートを繰り返すだけだ。
アレサもウィリアと同じように動物に変えることができれば……あとは、街のアイテム屋で買ってきておいた帰還魔法効果のある魔道具で、無力化した二人をまとめて最寄り街ラムルディーアまで戻しちゃえばいい。
そんなことをされた二人は最初は怒るかもしれないけど……。でも、きっと分かってくれるはず。非力で戦闘に不向きな運がいいだけの(少なくとも、彼女たちはそう思っているはずの)あたしに、そこまで一方的にやられてしまうような自分たちじゃあ、魔王には勝てないってこと。
だから、もっと準備を整えてから出直すしかないってことを。
……
でも、これは全部二人のためだから。これが二人が無事に結婚するハッピーエンドへと繋がる、唯一のルートなんだから。
そして……。
アレサにヒットしたあたしの『神々の悪戯』が、目当てとは違う『石化』の効果で剣のあたったアレサの右腕を石にし始めて、(やっぱ、さっきみたいに一発で『獣化』を引くのは無理かー。じゃ、時間を戻してもう一回……)なんて思っていたら……。
……え?
ドガァァーンッ!
アレサが、火属性の爆発魔法を剣があたった
「ちょ、ちょっとアレサっ⁉ あんた、な、何してんのっ⁉」
そのときの爆風と、同時に周囲に飛び散ったアレサの腕の血で、一瞬視界が奪われる。顔についたその血をぬぐって、再び前を見たときには……、
「はあ……はあ……はあ」
眼の前で、風魔法の刃をあたしの首元に突きつけているアレサの姿があった。
「ひっ……!」
強烈な血生臭さと肉が焦げる匂いとが混ざりあって、経験したことのないほどの不快な感覚が鼻孔を突く。あたしたちがいる地面はアレサを中心に半球形にえぐれていて、その周囲には、細切れになった赤黒い肉片が飛び散っている。それは、アレサの右腕だったものだ。
さっきの爆発が、それだけ凄い威力だったことを物語っている。
彼女の体は右肩くらいまで爆発で欠損して、立っていられるのが不思議なくらいにアンバランスな状態。その傷口からは、今もダラダラと血が流れている。
ホラー映画とか割と好きなあたしも、眼の前でリアルな人間がそんなことになっている姿には、流石に普通じゃいられない。喉の奥から、強烈な吐き気がこみ上げてくる。
それを抑え込むために手を口に持っていこうとして、気づいた。
アレサを斬った勢いで地面に突き刺さっていた『
さらには……。
パリィィン……。
反対側の、自分の左腕に装備していた腕輪が、薄いガラスが割れるみたいにあっさりと砕け散ってしまった。
「『光の五法輪』、は……五属性のうちのどれか一つだけなら、その威力を完璧に吸収することが出来るくらいに無敵だけど……同時に複数属性の攻撃をされると……案外、もろいのよ……」
苦痛に顔を歪めたアレサが、息も絶え絶えの声で言うように。
さっきあたしが一瞬スキをみせてしまったときに、彼女が複数属性の合体魔法で腕輪だけを攻撃していたんだろう。さらに、そうして魔法吸収効果を消したあとで、氷の魔法を使って、剣とあたしの手も固定してしまったんだ。
「って、ていうか!」
でも、そんなことは、今はどうでもいい。
「ア、アレサあんた、何してんの⁉ そんな重傷になって……は、早く回復魔法使いなよっ! そんなに血を流したら、死んじゃうでしょっ⁉」
眼の前でスプラッターじみた状態になっているアレサに、叫ぶように言う。
でも、彼女は軽く首を振って、それを鼻で笑った。
「こんな状態を回復できるような魔法なんか……あるわけないでしょ。もちろん、エリクサーだって、ここまで重傷じゃあ意味がない……。私の右腕は……もう諦めたほうがいいでしょうね……」
「そ、そんな⁉」
あたしは今まで何度も「今日」を繰り返してきたけれど……アレサがここまでひどい状態になったのは初めてだ。あたしの方がアレサに負けちゃうことは何度もあったけれど、あたしとの戦いでアレサたちが死にそうなほどの重傷になることは、一度もなかった。
それは今日だけじゃなく、あたしがパーティにいたころだって同じ。
最強の賢者アレサと勇者ウィリアは、いままでどんな凶悪な相手に対しても命を落とすような危険な状態になることなんてなかった。魔王戦以外では。
だからこそ、あたしは魔王に負けちゃったアレサたちに大きなショックを受けた。そして、そんな彼女たちを守ることに、こんなにも必死になっているんだ。
そんなアレサが今、瀕死の重体になっている。
普通の回復じゃあ間に合わないくらいに手の施しようがなくて、今にも死にそうな状態になっている。
そ、それじゃあ……。
「でも……」
こんなのもう、やり直すしかない……。
「でも、何も問題は……ないわね……」
いいや、こんなの大問題だ。絶対に、このままにしておくことなんてできない。
だから……このルートを捨てて、また時間を戻して、こんなことが起こらないように……。
あたしは、氷に包まれていない方の左手を動かして、いつものポーズのピースサインを作る。そして、これまで何度もやってきたように、例の呪文を唱えようとした。
でも。
そこで、思ってもいなかった言葉を聞くことになって、体を硬直させてしまった。
「エミリ……貴女はどうせまた、時間を戻してくれるんでしょう? だから、私がこんなに大怪我になっても、何も問題はないのよ……」
「……え?」
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