第3話
「つまり……エミリ、貴女は私たちが魔王と戦うのをやめさせるためにここまでやってきた、ってことなのね?」
そう言って、落ち着いた様子であたしが煎れた紅茶のカップに口をつけるアレサ。
ボロ小屋のボロテーブルを囲んで、ようやくあたしは、彼女たちとまともな会話をすることが出来るようになっていた。
テーブルの上には当然、あたしが用意したオレンジジュースのグラスと瓶、紅茶のカップ、それにケーキとフルーツと……この世界の最近の流行ファッションの絵が描かれた書物(いわゆるファッション誌的なもの)が数冊並んでいる。
結局、ここまでたどり着くのに
……ま、まあとにかく。
このまま進んだら多分魔王に負けちゃうってことは、この子たちに伝えることが出来た。
あたしが『
…………って思ったのに。
「まったく……貴女らしいといえばらしいけど、相変わらずの心配症ね? っていうか、私たちの愛の力を見くびり過ぎよ!」
え……?
「そんなこと伝えるために、ここまで来てくれたのー? エミリンって、やっぱり優しいねー? でもでもー、私たちこれまでもいろんなモンスターと戦って勝ってきたしー。魔王相手だって、なんとかなるよー!」
おいおい……。
「ま、私たちのことを心配してここまで来てくれた貴女の気持ちは嬉しかったわ。それに、飲み物やケーキもありがとう。お返しは、私たちの結婚式で盛大にさせてもらうわね? うふふ、楽しみにしてくれていいわよ」
いや、だから……。
「ねー! 誰も見たことないくらいにすっごい結婚式にしよーねって、いつも話してるもんねー?」
ちょ、ちょっと待って……。
「ああ、話してたら我慢できなくなってきたわっ! 善は急げってことで、ウィリア! もう出発しましょう⁉ じゃ……エミリは、
あ……あーあ。
結局このループも、あたしは失敗してしまった。
つーか……この人たち、あたしの話聞く気ある? レトロなRPGみたく、あたしがどの選択肢選んでも、結局最後は同じルートに入っちゃうんじゃないの?
いやいやいや……。
そんなこと考えたら、ダメダメ。
あたしが諦めたらそこで試合終了……アレサたちは、魔王に倒されてしまうんだもん。
だから、あたしは絶対に諦めちゃいけない。何回だって何十回だって「今日」を繰り返して……アレサたちを救うんだ!
……………………………………………………
「この私たちが、魔王なんかに負けるですって⁉ もおう、そんなわけないでしょう! 私たちのこと、見くびり過ぎよ!」
「いや、負けるんだよ……」
「大丈夫だよー。私たち、これまでもいろんなモンスターに勝ってきたしー。今回もイケるイケるー」
「ウィリアそれ、前も言ってたけどさー……他のモンスターよりも強いから、魔王って呼ばれてるんだからね? どんだけザコ倒せても、何の根拠にもならないからね?」
「私たちの愛の力で、魔王だって瞬殺よ!」
「魔王の闇魔法の力で、あんたたちのほうが瞬殺されるんだってばっ!」
「私たち、この戦いが終わったら結婚するんだー」
「おいっ⁉ それ死亡フラグだからっ!」
そんな……相変わらず『愚か』で『適当』な二人とのやりとりも、さすがに慣れてきた。
ここまでの、あたしの話を聞いてもらうまでのルートは、もう完全に確定できてる。あとは、ここから本格的に彼女たちを説得するターン。言ってみれば、ここからが本番だ。
「ああ! ウィリアが結婚なんて言うから、我慢できなくなってきたわ! こうなったら、
あ⁉ その「言葉」は……!
「ほらウィリア、休憩なんてしてる場合じゃないわよ! さあ、もう出発しましょう⁉ じゃ、エミリはここで
あわてて、あたしはアレサの口をふさぐ。
もう何十回も食らってきたから、アレサが魔法を使うタイミングは把握できてる。口をふさいで呪文を唱えさせなければ、無効化できるってことも分かってる。それから……、
「……よっ、と」
「あっれー?」
アレサの口を塞いだ直後に、警戒したウィリアが「首筋トンッ」ってやってあたしを気絶させようとしてくることも、分かっていた。(さすがに元勇者のウィリアの攻撃を避けるタイミングつかむには、二十回くらいループを繰り返す必要があったけど……)
「もご! もごもご⁉」
「エミリン、やっるー! いつから私の攻撃かわせるくらいに強くなったのー⁉」
口をふさがれてバカみたいな顔で騒いでいるアレサと、自分の攻撃をかわしたあたしを買いかぶって、次の攻撃をしかけようとウズウズしているウィリア。二人に交互に真剣な視線を向けてから、あたしは説得を始めた。
「アレサ……ウィリア……あんたたちがとんでもなく強いのは、あたしも知ってる。でも……どれだけ強くても、やっぱり二人だけじゃキツいって。最凶最悪な魔王が相手じゃあ、あなたたち二人だけで勝てる可能性は低い。あたしはなにも、二人のことを邪魔しようと思って言ってるんじゃないよ? むしろ、その逆。ふたりには、魔王を倒して夢を叶えてほしい。ただ……それを実現するための、もっと確実な選択肢を選ぼうよ、って言ってるんだよ」
そんな誠意を込めた説得に心が動いたのか、二人の表情も少し落ち着いたものになる。
「エミリン……」
「もご……」
よし、もうひと押しだ……。
あたしは二人に微笑んで、小さくうなづく。そして、続きを言った。
「だからさ……そのために今日のところは一旦帰って、ちゃんと準備をしてから出直さない? 街に戻ってアイテムと強い仲間を集めて、勝てる可能性が少しでもある状態にしてくれれば……。たとえ百回に一回だけでも勝てる可能性を作ってくれれば、あとはあたしが……」
「え?」
「あ、い、いや……」
おっと……うっかり、自分で自分の
いやー、別にこの子たちになら、バラしても大丈夫だとは思うんだけどー……。女神が言ったみたいな面倒なことには、ならないと思うんだけどー……。
でも、あたしはそれを誤魔化すことにした。
「つ、つまり……あたしは二人のことを応援しているからさ。そのあたしのことを、心配させないで欲しいってことだよ! あたしが全力で応援できるように……あんたたちの結婚を、現実にするためにさ!」
バァン、とボロテーブルを強く叩く。自分の気持ちの強さを表現するように。
「エミリ……」
私の手が口から外れたアレサが、感動に心を震わせるような表情で、つぶやく。
ああ、よかった……。
あたしの気持ちが通じたんだね?
これできっと、二人は考え直してくれて…………って思ったのに。
「貴女まるで……私たちがこのままだと負けるって、知ってるみたいな言いぶりね?」
「え……」
「ねー、どうしてさっきの私の攻撃避けられたのー? 私が首トンするって、知ってたってことー? どうしてー?」
「そ、それは……」
二人の視線が、針で刺すようなものに変わっている。
あ、あー……少し、やりすぎちゃったかなー……。
「エミリ、貴女……まさか……」
「えー? エミリンって、もしかしてー……」
「……」
だから……あたしは……、
「……だる・せーにゃ」
時間を戻しちゃった。
さっきも言ったように……別にこの子たちになら、あたしの『
ただ……自分のポリシーとしてさ。あたしはあくまでも、縁の下の力もち的な存在でありたかったんだよね。
……………………………………………………
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