第三章 vs 異世界転生タイムリーパー

第1話

 あたしは、どこにでもいる普通の女子高生の明日葉あすは絵美梨えみり……だった。


 ある日、友だちとユニバに遊びに行った帰り道、その余韻に浸りながら歩きスマホで感想動画の配信に夢中になっていたあたしは、うっかり赤信号に気づかず道路に出て、黒ずくめのトラックにはねられちゃって……目が覚めたら、ファンタジックな異世界に転生させられちゃってたっ⁉


 「転生者であることがバレたら、研究されたり解剖されたり、いろいろ面倒なことになる」。私を転生してくれた女神様のそんな助言で正体を隠すことにしたあたしは、途中で出会ったメッチャつよつよ女子冒険者チームのアレサたちに名前を聞かれて、とっさに「エミリ・アスハ」って名乗って、なんやかんやで、その冒険者チームに転がりこむことになった。


 もうこうなったら、女神様からもらった『時間跳躍タイム・リープ』の特殊能力チートスキルで、アレサたちが魔王倒すのを助けて、世界救っちゃうしかないよねっ⁉ っていうわけで、

 たった一つの最高の未来を手に入れるまで、何度でも時間を戻す……見た目は吟遊詩人、頭脳はJK。その名は……転生者エミリン!




 って、いやいやいや。

 何を言ってるんだ、あたしは……。


 まあ、ツッコミどころはいろいろ満載だけど……とりあえず、「異世界転生モノ」なのに、自己紹介がコ○ンくんチックになっちゃったのはごめんなさい。だってあたし、こういうの詳しくないんだもん! 漫画も読むしアニメも見るけど、他の友だちに比べたら全然ニワカなんだよ!


 だから正直最初は、「こんな世界あたしに向いてねー」とか、「早く元の世界帰りてー」とか思って、人知れず枕を涙で濡らしてたんだけど……ま、それでも何日か過ごしてたら結構慣れるもんだよね。

 友だちに連絡取れないのも、最初はマジでキツくてありえねーって感じだったけど……ありがたいことに、こっちで出会ったアレサたちとは結構気が合って仲良くなれて、もう今じゃ普通に友だちだし。一緒に冒険とかモンスターと戦ったりとかするのも、ゲームとかスポーツしてるみたいな感じで楽しかったし。

 今さら元の世界帰ってもいいよーってなったとしても、今度はアレサたちと離れるのがちょっと寂しいくらい、って感じでね。


 だから、さー……。

 アレサに急にパーティをクビにされちゃったのも、めちゃくちゃショックだったんだよねー。



 ホントはあのときこそ、あたしの『時間跳躍タイム・リープ』を使って、あの子の気が変わるようにすれば良かったんだろうけどさー。あたしたちをクビに出来ないようなルートに入るまで、時間を戻せばよかったんだろうけどさー。


 いやー、でも実はあたしあのとき最初、「もしかしたらコレ、ドッキリじゃね?」とか思っちゃって……。だって、アレサからその話聞いたのって、人がいっぱいいる酒場だったんだよ? 「ヤッバ⁉ もしかしてこの人たちも、全員仕掛け人⁉ もしかして、フラッシュモブ⁉ リアルで見るの初めてなんですけどー⁉」とか、無駄にテンションあがっちゃってさー。


 ……でも。

 いつまでたってもフラモブどころか、アレサがどっかから「ドッキリ大成功!」的なプラカード取り出すこともなく……。気づいたら、ブチ切れてるオルティと、号泣して何言ってるか全然わかんないイアちゃんと一緒に、この世界の職安的なところに行って、パーティで稼いだお金とかアイテムを分割してもらってるっていう……。

 そこまできて、ようやくあたしも気づいたんだよね。「あー、これ……マジでマジの話だわー……」って。



 あたしの『時間跳躍タイム・リープ』で一度に戻れるのは、せいぜい一日前まで。一応、リープして戻ってる最中にもまた新しくリープできるから、そう言う意味だといくらでも過去に戻ることは出来るんだけど……。

 でも、さっきのサプライズドッキリじゃないけど、あたしが気づいてないだけでアレサたちにも何か考えがあるのかも? っていう可能性もあるし。だからあたし、あえて時間を戻さずに、あの日からずっとアレサたちの行動を観察することにした。


 んで、その結果……あの子たちが魔王を倒して結婚しようとしてたってことが分かった。イアちゃんやオルティをクビにしたのも、ただのわがままとかパワハラじゃなくって、ちゃんと理由があったってことも分かった。

 それから……。

 このままだとあの子たちは、絶対に魔王には勝てないってことも……。




「まったく、不器用なんだから……」


 今あたしがいるのは、魔王がいるラストダンジョンの山の中腹にある、小屋の前。なぜかモンスターが近づけないような結界まで張ってあって、ゲームだとラスボス直前の最後のセーブポイントがあるような、なかなかご都合主義な休憩所。アレサたちは先に到着していて、すでに中にいるはずだ。

 前回・・のあの子たちは、この小屋で今から一時間くらい休憩をしたあとで、魔王に挑んでいたから。



 アレサとウィリアには、魔王を倒して結婚してほしい。でも、今のあの子たちにはそれは無理。二人だけで倒せるほど、ラスボスは甘くない。だからあたしは、これからこの小屋であの子たちを説得するんだ。


 あたしが見てきたあんな悲しい未来を、絶対に現実にはさせない。

 あの子たちには確実に魔王を倒せるように、今日のところは一旦戻って、ちゃんと準備をやり直してもらう。二人だけじゃなく、もっと強い仲間もいっぱい引き連れて、魔王にも余裕で勝てる状態になってから、改めてラスボス戦に挑んでもらうんだ!


 そんな強い意思を込めて、あたしはその小屋のドアを開けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る