第13話

「ふ……バカなことを!」

 オルテイジアが剣を振り上げ、素早くオーラを飛ばしてくる。

 アレサは体を回転させて、それをかわす。


「ア、アレサちゃん……」

 ウィリアは今、二人からは少し離れた位置にいる。アレサがそうするようにと事前に言っておいたのだ。だから、今日はアレサとオルテイジアの一対一の勝負だった。


「どうしたアレサ⁉ 昨日と何も変わっていないぞ⁉ そんなことで、本当にこの勇者を倒せるとでも思っているのか!」

 妖精王の聖剣の能力で、次々とオーラを飛ばしてくるオルテイジア。周囲が廃墟だからなのか、今日は昨日よりもずっと容赦がない。

 しかし、それはアレサだって同じだ。

 風の魔法でオーラを吹き飛ばしたり、土の魔法によって地形を変化させたりして、昨日よりもずっと余裕のある様子で勇者の連続攻撃から逃れていた。


「昨日の貴女との戦いの中で……私、明らかにおかしいって思ったところがあったのよね!」

 さらには、オルテイジアとの会話を続けながら、彼女に火球の魔法を飛ばす余裕も見せる。

「おかしいところ……だと⁉」

 オルテイジアは、オーラをまとった妖精王の剣であっさりと火球を弾き返す。

「そんなもの、この私にあるはずがない!」

 そして、その弾いた火球で逆に攻撃すると同時に、それに合わせてアレサに向かって斬りかかって行った。


「あれは……私とウィリアが一旦貴女から距離をとろうとしたときのことよ!」

 事前に炎の壁ファイア・ウォールの魔法を地面に発動していて、向かってくる相手への牽制と同時に、自分の姿を目隠しするアレサ。

 オルテイジアは構わず、炎の壁の上から剣を振り下ろす。しかし、その向こう側にはアレサはいない。

 すでに少し離れた場所に移動していた彼女は、手のひらの上にリンゴくらいの大きさの複数個の火球を準備していた。


「あのときも、私は炎の壁ファイア・ウォールで貴女の視界を塞いでから、ウィリアと一緒に貴女から逃げていた。でもそれは同時に、貴女ご自慢の『オーラ飛ばし』で遠距離攻撃するチャンスを与えることでもある。だから私、それがくるのを警戒して、ずっと後ろの様子をみていたんだけど……でも、貴女はあのときなぜか、『オーラ飛ばし』をしてこなかったわよね?」

 アレサは複数の火球を同時に投げる。

「そ、それは……」

 何故か少し戸惑いの色をみせつつ、オルテイジアはその火球を避けたり、剣で弾いたりする。アレサは、更に火球を出して追撃する。

「場所が街の中だったから、周囲に影響が出ないようにした? いいえ、違うわ。貴女はそのあと、もっと狭い路地の家の中では、普通に『オーラ飛ばし』を使っていたもの。それにそもそも、貴女の攻撃で破壊された建物には『補償金』が出るのだから、それを躊躇する理由はないはずでしょう?」

「だ、だから……」


「じゃあ、貴女の手助けをしてくれそうな少女の姿が見えたから、急いで攻撃する必要がなくなったのかしら? いいえ、それもありえない。あの少女がいたのは、私たちが逃げるために入った狭い路地の奥よ。大通りにいた貴女が、路地裏の家の中のあの少女の姿を、見ることができたはずがない。じゃあ、どうしてあのとき貴女は、『オーラ飛ばし』をしてこなかったのか……」

 話しながらも、アレサはエンドレスに火球の攻撃を繰り返している。

「く、くそ……!」

 オルテイジアが、そんな攻撃にしびれを切らしたように、またアレサのもとに斬りかかってくる。

 しかも今度は、右手の紋章に『聖なる光』を輝かせて、そのまぶしさでアレサの目くらましをしながらの攻撃だ。これ以上、小細工されるのを封じたいのだろう。


 しかし、アレサは動じない。

「あのとき貴女が『オーラ飛ばし』をしてこなかった理由……。そのあとの少女の家で薬草を・・・使ったあと・・・・・には出来たのに……それより前には出来なかった理由……。それは……あのときの貴女が、ダメージを・・・・・受けていた・・・・・から。だから、『体力が満タンのときだけ発動できるオーラ飛ばし』が出来なかった。つまり……」

「だ、黙れぇぇーっ!」

 アレサに向かって、剣を振り下ろすオルテイジア。その様子は、明らかに何かに焦っている。アレサに、それ以上の言葉を言われては困る、という態度だ。


 自分のすぐ目の前まで攻撃が迫っている状態でも、やはりアレサは焦らない。


 それから彼女は……、

「ごめんなさい、オルテイジア……そして、ウィリア……」

 とつぶやいてから、風の魔法・・・・を使った。


 次の瞬間。

 ふわっ……。


 あのとき・・・・と同じように、アレサたちの間を一陣の突風が吹き抜ける。そしてその風は、やはりあのとき・・・・と同じように、少し離れた位置で二人の戦いを見守っていたウィリアに直撃して……彼女のスカートを巻き上げた。

「きゃっ!」

 声をあげて、スカートを抑えるウィリア。


「はっ⁉」

 そんな彼女の様子を凝視するのは、もちろんアレサ…………ではなく、オルテイジアだ。

 そうなる・・・・ことが事前に分かっていたアレサは、眼の前で硬直してスキだらけになったオルテイジアに直接風の魔法を叩き込んで、彼女の体をふっとばした。


「く……」

 突風に押されて、十メートル近く後方まで吹き飛ばされたオルテイジア。口の端からは、一筋の血が流れている。

 しかしその血のダメージは、アレサの突風の魔法が原因ではないだろう。その程度の魔法の衝撃は、頑丈な鎧に身を包んでいて、しかも勇者であり王国騎士団長でもあったオルテイジアには、何でもないことのはずだから。だから、そのダメージは……。


 そんな彼女をからかうように微笑んで、アレサは結論を言った。

「あのときも貴女は、今と同じダメージを受けていたのよね? 『聖なる光』で吹き飛ばされた私と同じように……あのとき貴女も邪なこと・・・・考えてしまっていて、自分自身の『聖なる光』でダメージを受けていた。つまりオルテイジア……貴女も、ウィリアのことが好きなのよ。邪な心を抱いてしまうくらいに、ウィリアのことが大好きだったのよ!」

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