第164話 名前

パンケーキっておいしいんだな。

そんな当たり前の事を今気がついた。

パンケーキってパンなのかそれともケーキなのか。

積極的に食べさせてくれる三上さんと、恥ずかしがりながら食べさせてくれる神楽坂さん。

結論から言おう。

どちらが食べさせてくれるパンケーキもとてもおいしい。

美味とは美しい味と書く。

つまり美しい人に食べさせてもらう味。

つまりはそういう事だ。

ファンタジックな現状に少し頭が哲学的な思考に走りそうになる。


「ねえ、御門。話は変わるんだけど、私達ダンジョンにも一緒に潜ってるし仲間じゃない?」

「もちろんだけど」

「そうでしょ? 結構修羅場も一緒に潜ってきた仲じゃない。それなのにいまだに私、三上呼びなんですけど」

「え〜っと」

「私は御門って呼んでるのに三上さんはどうなの?」

「え〜っと、どうなのとは?」

「だ〜か〜ら〜英美里で!」

「英美里で?」

「そう、英美里」


これは、普通に考えると三上さんは俺の事を名前で呼んでるんだから、自分の事も名前で呼べよという事だよな。

いや別に俺はいいよ。

普段向日葵のことは名前で呼んでるし女の子を名前呼びするのは、慣れてるしなんでもない。


「え、え、え、英美里さん」

「な〜んか堅いな〜」

「えっ、そうか?」


思いっきり吃ってしまった。


「それに、さん付けも他人行儀じゃない?」

「そ、そうか?」

「じゃあ、さん付けなしで」

「え、え、え、英美里」


また吃った……。

うまく言葉が口から出ていかない。


「うん、いいんじゃない。えは一回だけどね」


恥ずかしい。

まさか、三上さんの名前を呼ぶだけなのにこんなに苦戦するとは。

ふ〜〜。

だけど、次からはもう大丈夫だ。

なんか、どっと疲れた。

疲労には甘いものだな。

パンケーキを食べよう。

うん、おいしい。


「あの……御門くん」

「神楽坂さん、どうかした?」

「よかったらわたしも」

「わたしも?」

「うん」


え〜っとこれはあれか。

あれだよな。

名前だよな。

神楽坂さんもか。

いや、三上さんでもう経験済みだし、何も問題はない。


「名前?」

「うん」


そうだよな。

す〜〜っ。


「ま、ま、ま、舞歌さん」


また吃ってしまった。

俺の口はどうしてしまったんだ。

クラスメイトの女の子の名前を呼ぶだけなのに、まともに仕事をしてくれない。


「はい」

「御門、緊張しすぎ。まは一回だよ」

「それはわかってる」

 

これは緊張だ。

緊張から舌と口がうまく動かないんだ。

正直、ミノタウロスを前にしたのと同じくらい緊張してしまった。


「はい、それじゃあもう一回」

「もう一回?」

「そう、もう一回舞歌のことも呼んでみて。仲間はずれみたいだしさん付けなしの方がいいと思うけど」


仲間外れってそんなわけないけど、そういう言い方されると呼ばないわけにはいかない。

ふ〜〜。


「ま、ま、ま、ま、舞歌」

「はい」


また、吃ってしまった。もう、俺ダメかもしれない。

セイバーとしてそれなりにやってきたつもりだったけど自分がこんなにヘタレだったとは……。

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