第148話 水月

「ボギンッ」


蝉時雨の刃が亀の首へとめり込む。

表皮に触れた瞬間強烈な衝撃が蝉時雨を持つ手と手首に加わり、そのまま力を込めると鈍い音を立てて蝉時雨が根元から折れた。


「ギイィイ」


刃が首に刺さったまま、亀が悲鳴のような声を上げる。

俺は急いでその場から離脱を試みる。


「御門! 『アイスフィスト』」

「先輩下がってるください。『ゲルセニウムバイト』」


三上さんと野本さんがスキルを発動し亀の動きを阻害してくれる。

その間に後方へと下がった俺はスマホの画面をタップして新たな武器を排出させる。

『ガチャ』で当たった武器が折れるのはこれが初めてではないので、焦りはない。

『ガチャ』による武器は有用な事が多く『Rガチャ』以上で排出された物には特殊効果が付与されている武器も多いが、それは耐久性の高さを示す物ではない。

モンスターによっては武器の耐久性を超える硬度の場合もあり、継続して使用していると普通に破損してしまう。

比較する事は難しいが、特殊効果により威力が上がる分だけ耐久力は下がっているのかもしれない。

その為、ある意味武器は消耗品であるというのが頭の中には定着している。

そういう意味で『ガチャ』のストレージに複数貯蔵してある武器は、数でその致命的ともいえる部分をカバー出来ているので上手くバランスが取れているともいえるかもしれない。


『水月』


その刃に水を纏い滑るように対象物を断つ刀だ。

ファイアブラントの様な大振りの剣には威力で劣るが、俺は好んで日本刀に近しい武器を多用している。

武術の心得が無く、スピード特化とも言えるステータスでは、大振りの剣よりも少し軽く取り回しの利く刀の方が使い易く有用に感じているからだ。

水を纏ったその刀身は透明にも見え美しい。

宙に浮かぶその柄を握り再び亀へと走る。

亀の首は硬い。

もし水月も蝉時雨と同様に折れるなら何度でも繰り返すだけだ。

ストックはまだまだある。


「お兄ちゃん、たおして! 『グラビティ』」


俺の動きに合わせて向日葵がスキルを発動し亀の動きを止めてくれる。狙うのは蝉時雨の刃が埋まっているのとは逆の首筋。

側面へ回り込み、狙いをつけて水月の刃を走らせる。

亀の表皮に触れた瞬間、先程と同様に硬い感触と衝撃が手に伝わってくるが、全身で水月を押し込むとヌルッと刃が通った感触がありそのまま水月が折れる事なく振り切れた。

どうやら、水月の特殊効果は亀の外皮を突破する事に成功したようだ。

亀の首が地面に落ちそのまま消滅した。

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