第147話 SS 新春ガチャ

「お兄ちゃん、初詣行こうよ」

「初詣? いいけど何時から?」

「それはもちろん24時ぴったりでしょ」

「向日葵、それは無理だって。向日葵中学生だぞ?」

「中学生だって初詣くらいするから」

「それなら、朝とか昼でいいだろ」

「わかってないな〜。日付が変わるその瞬間がいいんじゃない」


モンスターブレイクが起こってから迎える初めての年越し。

それなりに日常生活を送れてはいるけど、不自由な部分もあるし向日葵の言っている事もわがままで片付けられない部分もある。

だけど、さすがに夜中に初詣とかは無理だ。


「向日葵、夜中は無理。モンスターが襲ってきたら暗いのはさすがにやばい。もし初詣の最中にモンスターの群れに襲われたら対応できる自信がない」

「え〜、お兄ちゃん心配しすぎじゃない?」

「心配しすぎくらいでちょうどいいんだよ」

「それじゃあ、夜中は諦めてあげるから、代わりにガチャで何か出して。それで我慢してあげる」

「それは別にいいけど今日はもう使ったから無理だぞ。明日な」

「それじゃあ、お正月だしヴィトンのバックとか財布がいいかな〜」

「ちょっと待て。ガチャにお正月とか関係ないから」


別に向日葵の為にガチャを引くことは全く問題ない。

だけど、お正月だからといって、特別な景品が当たるわけではないしそもそも、ヴィトンのバックとか財布ってそんなの出るはずない。


「あんまり期待するなよ」

「期待してるから〜」


翌朝、起きてから家族に新年の挨拶をする。


「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」

「あけおめ。お兄ちゃん早く早く〜」

「わかってるって。『レアガチャ』」


「ん? フランス産丸ターキー? 丸ターキーってなんだ?」

「あれじゃない? 七面鳥一羽丸ごと」

「ああ、そのターキーか。先週だったらよかったのに」

「言えてるかも。次、いこうよ」


『レアガチャ』


「嘘だろ……」

「え? なに? もしかしてヴィトンきたの?」

「いや、そうじゃなくて料亭 鴨志田の3段おせちが当たった」

「おせち〜? やっぱりお正月だし特別なんじゃない? ところで料亭鴨志田って美味しいのかな」

「それは美味しいんじゃないか。料亭っていうくらいだし。料亭行った事ないけど」


今まで一度もおせちが当たった事はなかった。

丸ターキーも初めてだ。

明らかにこの季節を意識した景品だ。

もしかして、本当に新春ガチャ的な状態なのか!?

本当にそうなら次も!


『レアガチャ』


「マジか……」

「お兄ちゃん! 当たった?」

「あぁ、当たった。大栄スイカだ」

「スイカ?」

「ああ、スイカ」


なぜここでスイカ?

夏の代名詞ともいうべきスイカがなんで元旦の今!?

やっぱり、おせちはたまたまだったか。

いや、この時期にスイカって贅沢だよな。

間違いなくみんなに喜ばれるし、お正月に相応しいとも言えるか?

料亭のおせちにデザートの大栄スイカか。

ある意味文句なしかも。


「お兄ちゃん、食べ物はもういいから〜。わかってる?」


いや、向日葵は文句ありだった。


「それじゃあいくぞ。『URガチャ』」


回復した『URガチャ』をタップする。


「………」

「お兄ちゃん?」

「当たった」

「まさかまたスイカじゃないよね」

「いや、ヴィトン」

「ヴィトン!?」

「そう、ヴィトンの財布」

「きゃ〜! やった〜! お兄ちゃ大好き〜!」


信じ難い事だけど、確かにスマホの画面には「ヴィトンの財布」の表示が。

こんな事があっていいのか?

向日葵の願いが奇跡を起こしたのか?

それとも本当に新春ガチャは特別だったのか?

それはわからないけど、向日葵が喜んでるしよかったな。

「お兄ちゃん大好き」か。

うん、元旦から悪くない。

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