第139話 動物園デート2
「御門、あれ見て。ライオンだよ〜。やっぱり猫の王様は最高〜。かわいい〜」
「三上さん、猫の王様って?」
「え〜だってライオンは百獣の王なんだよ。じゃあ猫の王様でもあるでしょ」
「そう言われてみればたしかに」
「やっぱかわいい〜」
三上さんが猫系、ライオンも好きだとは事前に聞いていたけど、実物を前にかわいいを連発。
普段結構大人っぽいだけにこのギャップはずるい。
「御門、餌あげれるんだって。1人1500円だって。せっかくだしあげない? あげるよね」
「あげようか」
1人1500円か。ダチョウの100円からは一気に値段も上がったけどライオンに餌なんかやった事ないけどどうするんだ?
係りの人にお金を支払うと、引き換えに鉄串に刺さった生肉を渡された。
「それじゃあ、ここからあげてください。絶対にこれ以上奥には手を伸ばさないでください」
ライオンだから肉なのは想像がついたけど、これをやるのか。
檻の端に鉄串に刺さった肉を差し出すと寄ってきたライオンがバクっと食いつき器用に肉だけを取っていく。
食べてる間は、猛獣然とした唸り声のようなものが聞こえてくる。
「すご〜い。私ライオンの餌やりって初めて。食べる姿もかわいい〜」
「そうかな」
俺もライオンの餌やりは初めてだけど正直、ライオンが肉を食べているその様はかわいくはない。
動物園とはいえ、やはり猫の王様だけあって恐ろしい。
檻越しとはいえ餌を食べるその姿は迫力があり大型の肉食獣特有の怖さしか感じない。ただ人によって感じ方はそれぞれなので三上さんにとってはかわいく見えるのかもしれない。
「うん、動物園って久しぶりだけどやっぱ楽しい〜」
「それならよかった」
「御門、今日は連れてきてくれてありがとう」
「いや、お礼を言うのはこっちだって」
「え〜本当に〜?」
「こんな世界になって、まさか向日葵以外の女の子と2人で遊びに来れるなんて思ってなかったから」
「それは私も〜。このまま一度もデートの経験なく終わっちゃったらどうしようかと思ってた」
「え!?」
「え? 何その反応?」
「い、いや、なんでもない」
俺の聞き間違いじゃなければ、これって三上さんも初デート!?
いや、だけど三上さんってそういうのは慣れてそうなんだけど。
え?
「こんな日がずっと続けばいいのにな〜」
「そうだな」
「今まで、そんなの思わなかったけど、最近こういう日常の時間が本当に大切だと思うようになったんだ〜。御門とこうやって動物園にこれてるのも本当に大切な時間だし、この世界は私達が守らないと動物園もなくなると困るし」
三上さんの言う事もよくわかる。
こんなモンスターが溢れる世界になってしまったせいか、日々のちょっとした事が愛おしく思えたりする事がある。
世界は変わってしまったけど、まだ壊れてしまったわけではない。
動物園だってまだあるし、こうやって初めてのデートだって出来ている。
今こうして俺たちが生きているこの世界を、この生活を守りたい。
こうやって楽しい時間を過ごすとそう強く思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます