第115話 これは救急行為だよ

神楽坂さんは、何を思ったのか手に取ったポーションを自分の口へと運んだ。

まさか……

この差し迫った状況だけど、俺は鈍感系主人公ではない。

むしろ多感な過敏系。

今の状況と神楽坂さんの行動から、とんでもない情景が脳裏に浮かんでしまった。

いや、俺って馬鹿なのか。いくらなんでもそれはない。

そんなファンタジーイベントはリアルの世界では起こるはずはない。


「カハッ」


苦しくて咳き込んでしまうが、神楽坂さんの綺麗な顔がどんどん近づいてくる。

至近から見る神楽坂さんの顔は本当に可愛くて、色白だけどその頬は桜色に染まっていてとにかく可愛いい、いやまじ天使だけど近い。

近い本当に近い。近すぎる。

うん、もうこれは、あれだ。

ありえないけど、なんかファンタジーな事が起こってる。

ポーションで湿った神楽坂さんの薄ピンク色の唇が俺の唇へと……

あ……

あまりの衝撃に思考能力が完全に飛んだ。頭の中が真っ白になってしまった。

なんか柔らかい……

神楽坂さんの口伝いに俺の口の中に何かが流れ込んでくる。

ファンタジーすぎて何が起こったのか脳が理解を放棄する。

俺の身体は呼吸するのも忘れ、さっきまで苦しかった感覚も消え去り、もう何がなんだかわからない。

思考と一緒に身体の反応も消え去ってしまったかのようだ。もしかして心臓も動きを止めてしまったんだろうか。

ただ、口の中に流れてきた液体だけが自然と喉へと進み食道を通り胃へと至る。

自分で飲もうとした時には、あれほど咽せ返ったというのに真っ白になってしまったせいか、今液体はただ清流の流れの如く上から下へと流れている。

味なんか全くわからない。

さっき自分で飲もうとした時には確かに強いミントのような刺激を感じたが、今は何も感じない。

ただ柔らかい……

あ……

俺の唇から柔らかい感覚が離れ、目の前には真っ赤になった神楽坂さんの顔があった。


「御門くん……飲めた?」

「あ……」

「舞歌〜! どさくさに紛れてなにやってるのよ! ズルい!!」

「英美里、これはそんなんじゃ……」

「言い訳は後で聞くから早くそこから離れて!


三上さんの声で真っ白だった俺の脳にも僅かばかり思考が戻ってきた。

そうだ、ここから離れないとやばい。

だけど身体が熱い。

顔が熱い。

そして腹が燃えるように熱い。

比喩表現ではなく、腹の中が燃えるように熱い。


「ぐっ……」

「え!? 御門くん?」


なんだこれ。

やった事ないけど、タバスコか何かを一気に流し込んだような熱さだ。

胃が燃える。

もしかして毒!?

いや、でも神楽坂さんが持っていたのは確かにポーション(低級)だったはず

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