第85話ミノタウロス戦1

身体が痺れたように動かない。


「御門くん!」

「あ……」


ミノタウロスは今までのモンスターと違い巨大な戦斧を手にしている。

その大きさは俺自身の大きさと変わらず、あれをくらったら紙を破るかの如く一撃でやられてしまうのは間違いない。

その事が余計俺の身体の自由を絡め取る。

俺たちが逃げるのをやめたのを見て、ゆっくりと一歩また一歩とミノタウロスが近づいてくる。

まずい。まずい。まずい。

逃げられないと覚悟を決めたはずなのに、身体が動かない。

視線はミノタウロスの頭と手に持つ戦斧に釘付けとなり、頭が考えることを放棄しかけている。

蛇に睨まれたカエル。

そんな言葉だけが頭をよぎる。


「くるな〜! 『ゲルゼニウムバイト』」


棘の枷がミノタウロスの足下から襲いかかり、その歩みを妨げる。


「先輩! 今です!」

「あ……」

「御門! やらなきゃみんな死ぬんだよ!」

「お兄ちゃん! 死んだら服買えないんだからね! 嫌いになるよ!」


みんなの声でようやく痺れた俺の身体に血液が戻ってきた。

雷刃を持つ手に力を込めてミノタウロスに向け走り出す。

やるしかない。

野本さんもレベルアップしてスキルの威力も上がっている。

完全捕えているいまならいけるはずだ。

俺は恐怖を押し殺し、血走るミノタウルスと目が合わないようにして距離を詰めていく。

いける。

もう少しで雷刃の刃が届く、そう思った瞬間、信じられないことに棘の楔を完全に無視するかのように右手に持つ巨大な戦斧を振るってきた。


『ブフォン』


空気が破裂したかのような音を立てて戦斧が俺の前を横切っていくが、風圧で俺の身体が一瞬押し戻される。

うそだろ。


「ウアアッ」


幸いにも身体が傷つけられることはなかったが、やばい。

ミノタウロスは身体に巻き付く棘を引きちぎりながらこちらへと歩を進めてくる。

メチャクチャだ。

おそらく今の野本さんのスキルなら赤茶色のガーゴイルであってもある程度足止めはできる。

それがまるで細い糸を引きちぎるが如く意に介した様子もない。


『グラビティ』


今度は向日葵がスキルを発動し動きを止めにかかる。

重力の枷が襲いかかると、ミノタウロスはその歩みを一瞬止めたが、


「グウウウヴォアアアアア〜!」


雄叫びを上げると、再びこちらに向けて歩き始めた。

向日葵のグラビティですら一瞬の足止めにしかならないのか。


「この化け物! くらえ『アイスフィスト』」


続けて三上さんがスキルを発動し、氷の槍が一直線に飛んで行きミノタウロスの胸へと突き刺さった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る