第83話 奥から

「よし、じゃあちょっとだけ降りてみよう。もしダメだったらすぐに戻ってくれば大丈夫だと思うから」


いくら考えても正解は思いつかないし、いつかは先に進まなければならないのは間違いないので様子見にちょっとだけ降りてみることにした。

5人で様子をうかがいながら慎重に3階層へと踏み入れる。


「なんだ、2階層とそう変わらないじゃない」

「ああ、そうだな」


降り立った3階層は2階層と見た感じ変わりはない気がする。

モンスターも見える範囲内にはいないようだ。


「ふ〜ぅ」


ちょっと拍子抜けしてしまった。

いや、まだ踏み入れたばかりなので気を抜いている場合ではないが、もっとすごいところなのかと思っていた。


「お兄ちゃん、それでどうするの? ちょっと見るだけって言ってたけど、これで引き返すの?」

「いや、それは、なぁ」


さすがに見るだけと言っても、これでは何の経験にもならないのでこのまま戻れない。


「もう少しだけ進んでみようか。出来れば軽くモンスターとも戦ってみたいし」


その場から5人で奥へと進む事に決め慎重に進んでいく。

近くに他のセイバーがいる気配も無く、モンスターの気配も無い。

3階層はもしかしてモンスターの密度が低いのか?


「モンスター出ませんね」

「ああ、そうだね」

「もしかしたら他のパーティが全部倒しちゃったのかも」

「そうかもしれないな」


初めての3階層なので、これが普通なのかわからないが2階層までなら確実にこのタイミングまでにはモンスターと交戦している。

同じように見えてもやっぱり2階層までとは違うのだろう。

足を止めるような事もないのでそのまま進んでいく。

結構奥まできてしまった気がする。

何もないのはいい事なのかもしれないが、なにもなさすぎるのも少々不安になってきてしまう。


「御門くん、大丈夫なのかな」

「あ、ああ。どうかな」

「先輩、ダンジョンってこんな感じなんですか?」

「いや、どうだろう」


みんなも俺と同じように、この状況を前にして不安をおぼえているようだ。


「やっぱり、今日はここまでにして戻ろうか」

「それがいいかもしれない」

「初めてですから、焦る必要もないですし」


うん、多分これが正解だ。

俺たちは、その場で歩みを止めて今まで来た道を引き返す事にする。


「ガアアアアアアアアアアアアアァァァア〜」


「ヒッ」

「エッ」


今まで全くの無音だったダンジョンにモンスターの咆哮と思しき声が響き渡る。

この声は俺たちの背後から聞こえて来た。


「お兄ちゃん!」


まだ距離があるのか敵の姿は見えないが、声の感じからやばい気がする。


「みんな、このまま戻るぞ。急ごう」

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