第17話 エンカウント

2人と別れてから、また街をブラブラして帰っている途中それは突然現れてしまった。


「お兄ちゃん!」

「ああ、間違いない。ゴブリンだ」


この前俺が倒したのと同じゴブリンが現れた。しかも3匹も。

周りに他の人は誰もいない。

完全に3匹の狙いは俺たちだ。

どうする。

どうするのが正解かわからない。

前回1匹倒しているせいか、不思議と恐怖は感じない。

だけどレベルアップしたとはいえ俺1人で3匹のゴブリンを相手取ることはできない。

逃げ切れるか? 俺が突っ込んで向日葵だけならいけるか? 

だけど俺が抜かれたら向日葵1人になってしまう。

3匹俺1人で向日葵が逃げ切るまで持たせられるか?


「向日葵、逃げるぞ」

「お兄ちゃん、私もやるよ」

「いやだけどな」

「お兄ちゃん1人じゃ無理でしょ」


そう言われては元も子もないが、確かに俺1人でゴブリン3匹を相手にするのは難しい。


「わかったよ。一緒にやるぞ。だけど絶対に前には出てくるなよ」

「わかってるって」


俺は持っていた懐剣を取り出し手に構える。


「ギャッギャッギャッ」


前方でゴブリンが激しく身体を動かしこちらを威嚇してくる。

身体は小さいとはいえ、その醜悪な見た目で威圧されるとかなり恐怖を感じてしまう。


「お兄ちゃん、いくよ」

「ああ」


向日葵が後方でスマホを取り出したのがわかった。


「これでどう? お兄ちゃん。『グラビティ』」


向日葵のスキル発動と同時にゴブリンのうちの一匹が苦しそうな表情を浮かべながらその場に膝をついた。


「これいけるかも。お兄ちゃん避けて」


向日葵のに反応して横に飛び退くと同時に後方から鉄球が飛んでいき膝をついていたゴブリンの頭部へとめり込んだ。


『グチャッ』


肉の潰れた音がしてゴブリンはその場から消えて無くなった。

一瞬の出来事だったが、信じられない事に向日葵はひとりでゴブリンを片付けてしまった。

圧倒的と言っていい。

 

「お兄ちゃんくるよ。『グラビティ』」


向日葵は俺にわかるよう大きな声でスキルを読み上げてくれている。

もう一匹のゴブリンに『グラビティ』のスキルが発動したのを見て、俺もゴブリンに向けて走り出す。

速い。明らかに普段よりも速い加速に自分でも驚きながらもゴブリンとの距離を一気に詰めて、前回と同じように懐剣を両手で握りゴブリンのしなだれた首へと振り下ろす。

前回同様に硬い感触は手元に伝わってきたが、そこから更に力を込めると懐剣は振り切れた。

武器の違いなのか、それとも俺のステータスが上がったせいかはわからないが、前回は断ち切ることの出来なかったゴブリンの首だが、今回は難なく断ち切ることが出来てしまった。


「お兄ちゃん!」


俺がゴブリンにとどめをさした隙をつきもう一匹が、襲ってこようとしていた。

咄嗟に後方へと飛び退くが、その瞬間ゴブリンの頭部に鉄球がめり込みそのまま崩れ落ちた。


「向日葵」

「お兄ちゃん、ちょっと危なかったね」


いや、なんでそんな軽いノリなんだ?

ゴブリンが3匹だぞ。

しかもほとんど3匹とも向日葵が倒したようなものだし。

初めての戦いで、向日葵強すぎないか?

『グラビティ』で動きを止めて『アイアンストライク』でとどめをさす。

ほぼ完璧じゃないか?

いや回数制限があるからやっぱり1人では危険だけど、俺の妹は初めてのゴブリン戦にもかかわらず圧倒的なポテンシャルを見せつけたのだった。


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