第11話 ゴブリンを倒す
ヒーローの様に躍り出てゴブリンを倒すことができればいいが、俺がそういう存在でないのは自分が1番よくわかってる。
柔道部の石黒を一撃で倒す様なやつだ。チャンスは2度はない。
確実に殺れるタイミングで一撃にかけるしかない。
自信はないが、背後からの急所への一撃。
頭か首。
それしかない。
狙いやすいのは的の大きな頭だが、頭蓋を割れなければ反撃される可能性もある。
1番可能性が高いのは首か。
仮に首の骨を断ち切れなくても、生物である以上首の半分に刃物を入れられれば、まず間違いなく死ぬ。
いや、ゴブリンって生物だよな。
根本的な所が揺らぎそうになるが、ゴブリンの一挙手一投足に神経を集中する。
「い、いやあああ〜」
神楽坂さんが逃げようとするがゴブリンに阻まれ、押し倒される。
「きゃああああ〜」
ゴブリンが神楽坂さんの上に馬乗りになる。
完全にゴブリンの意識は神楽坂さんに集中している。
「誰か助けて! いやああああああああ〜」
今しかない。
俺は手に持つ鉈を両手で握りしめ、息を殺したままゴブリンの背後へと迫り全身全霊を込めて鉈を水平にフルスイングした。
鈍い抵抗が手元に伝わってくるがそのまま力を込める。
すぐに硬い感触が伝わって来て、手首に強烈な力が加わり痛みと衝撃で思わず鉈を握りしめる手を離してしまった。
「くっ」
やばい手首を痛めた。それに鉈を手放してしまった。
俺は目の前のゴブリンに目を向けるが、鉈が首を捉え、突き刺さっている。
ゴブリン越しに神楽坂さんの驚いた表情が見てとれた。
「グ、グ、グェ」
ゴブリンはカエルが潰れたような声を出してこちらにゆっくりと顔を向けた。
「うわあああああ!」
鉈を首に埋めたゴブリンが至近距離からこちらを向く。
それはもう恐怖以外の何者でもない。
完全にホラーだ。
俺は手首の痛みも忘れて必死でゴブリンに刺さっている鉈を引き抜き、もう一度叩き込んだ。
「グェ」
俺が鉈を引き抜いた瞬間ゴブリンの首にできた傷口からは大量の血が噴き出し、二撃目を加えた所でゴブリンはその場に倒れ、そして消失した。
「消えた……やった……のか?」
ゴブリンが消え大量に飛び散ったはずの血も消えてしまった。
モンスターと戦った事なんかないので、これで終わったのかどうかの判断もできない。
しばらく、ゴブリンが消えた所を注視するが、再び現れる気配はない。
どうやら本当に倒したらしい。
「能瀬くん」
「あ、ああ、神楽坂。大丈夫か?」
「うん、なんとか。助けてくれてありがとう」
「どうにかなってよかったよ」
「もう私ダメかと思った」
「ああ、やばかったな」
「あ! 石黒くんは?」
ゴブリンに必死で頭から抜けていたが石黒はどうなった?
「大丈夫じゃなさそうだけど、とりあえず息はあるみたいだ。すぐに救急車を呼ぶな」
残っていたクラスメイトの1人が確認してくれた。
「よかった。怖かった。能瀬くん怖かったよ〜。うぇええええ〜ん」
神楽坂さんは、俺が手をとって起こしてあげると抱きついて来て泣き出してしまった。
それは高校生の女の子がモンスターであるゴブリンに襲われて馬乗りになられたんだ、恐怖以外の何者でもなかっただろう。
もう少し早く助けられればよかったが、これでも俺の精一杯だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます