第10話 迫るゴブリン
異様な緊張感が教室を支配する。
教室の中央ではゴブリンがキョロキョロと周囲を見回しているが、ある生徒の所でその視線が止まった。
その生徒もゴブリンの視線を感じて息を飲み込んだのがわかった。
神楽坂さん。
醜悪なゴブリンのその顔がニタアと笑った気がした。
そしてゆっくりと神楽坂さんの方へと歩き始めた。
ほとんどの生徒がそれを見てチャンスと思ったのか扉の方へと駆け出す。
俺もそうしようと思ったけど、身体が動かない。目の前の光景を前に逃げるという為に足が動かない。
逃げたいけど、身体がそれを拒否している。
「このやろおおお〜! 神楽坂さんに手を出すな〜!」
その瞬間、逃げずに、残っていた石黒がゴブリンに後方からタックルをかました。
虚をつかれたゴブリンは石黒のタックルにバランスを崩し、転がったがすぐに起き上がり石黒を蹴り飛ばした。
「ガハッ」
石黒はゴブリンの一撃でその場から吹き飛び動かなくなってしまった。
それを確かめると再びゴブリンは神楽坂さんの方へと向かい始めた。
石黒は柔道部だ。クラスの中でもガタイが良く力もかなり強い方だが、それでもダメだった。俺に出来る事はなにもない。
やっぱり隙を見て逃げるしかない。
そう頭では理解しているが、目の前で神楽坂さんが襲われそうになっているのを見てどうしても逃げる事ができない。
だけど、教室にはゴブリンを倒すための武器なんかない。
机や椅子はあるがおそらくゴブリンには通用しないだろう。
俺の持ち物の中にも武器になる様なものはない。
唯一あるのは手元にあるスマホ。
今日はまだガチャを引いていない。
今まで武器と呼べるものが出たのはこの半年間で一度だけ。
だけどフライパンでも出れば可能性はある。
俺に残された可能性はこれしかない。
頼む! 神様! 俺に力を!
今までこれほど渇望したことはない。これほど願いを込めてガチャを引いた事はない。
俺は心の底から願いを込めてスマホをタップする。
その瞬間『ガチャ』回数が消え代わりに表示されたのは鉈1だった。
普段あまり使う漢字ではないのでINT3の俺は鉈の表示に一瞬ピンと来なかった。
だけど金辺を見て可能性を理解した。
多分だけど、これは……これは当たりだ。ここにきて俺の願いが届いたのかあたりを引いたに違いない。
鉈がゴブリンに通用するのかはわからない。
そもそも鉈という漢字を習った記憶もないし鉈がどんなものかもはっきりとはわからなかったが俺は迷わず鉈1をタップする。
タップすると机の上には包丁を四角くして分厚くした様な刃物が現れた。
やっぱりあたりだ。
俺は震える手で鉈を握りしめる。
ゴブリンを見ると、神楽坂さんに手を伸ばせば触れられる位置まで迫っている。
すぐにでも襲いかかってやりたい衝動に駆られたが、俺は息を殺して機会を伺った。
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