引きこもりでもナンパがしたい!

才式レイ

本編

 『筋肉を鍛えたらモテるようになる』

 その一言を愚直に信じ込んでいた引きこもりはここに一人。


「見よ、このはち切れんばかりの上腕二頭筋を!」

 

 左腕でこぶを作ってみせて、右手でぱちぱちと叩く男の叫びが四畳半の部屋に響き渡る。


「そして、己の器の大きさと比例するのであろう、このムキムキ厚い胸板! そして、極めつけはこのシックスパックッ!」


 鏡の前で鍛え上げられた肉体を見て、得意げに笑う。

 何故彼はここまで筋トレに夢中になったのか。それを知るには一年前に遡る。無為な日々を送る中、彼はあるスポーツクラブ勧誘のCMを見た。


『モテ期をただ待つだけじゃあ永遠に来ない。自分の手で未来を掴み取るんだ! さあ、君も一緒にレッツ筋肉マッスル!』


 それ以来、彼は筋トレに励むようになった。並々ならぬ努力を続けた結果、この精悍な体つきを手に入れたわけだ。


「フッフッフ、このナイスパーフェクトボディを手に入れたからには、早速念願のナンパに洒落こもうではないか!」


 当初の目的を果たすために、彼は一年ぶりに家を出た。街に出て周辺でうろうろしてから30分経った頃、自分が極度の人見知りであることを思い出した。


(このままじゃあ、昔と何も変わらないじゃないか!)


 焦燥感を燻らせて、昔掲示板に書かれたことを実行に移すことにした。ファーストフード店のレジで並んで数分後、ようやく彼の番に回った。女性店員の事務的な態度を前にして、彼はキメ顔でこう言った。


「スマイルをください。テイクアウトで」


 けれど女性店員の反応はとても冷たく、まるでブリザードでも吹いているのかのようだった。気まずい空気の中で彼は注文して列を離れる。その時、彼は自分がしたのと全く同じ台詞を聞いた。


「スマイルをください。テイクアウトで」


 彼はすぐにイケメンを睨みつけるが効果なし。


「あの……あと30分で終わります」


 その日、彼の顔からはスマイルが消えた。

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引きこもりでもナンパがしたい! 才式レイ @Saishiki_rei

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