3-4 捕獲計画

アノレマとの会談から数日後、エルピス本部の飛行場においてレイノルズは目の前の機体を見て愕然とした。

ROG社が用意したという空と宇宙を飛行可能な空宙両用機が2台敷地に置かれていたのだ。

その機体の前に金髪の女性が見える。

青年期ぐらいの背格好で、金髪の長髪をツインテールにしている。

状況も相まって目立ち具合は半端ではなかった。

おもむろに振り返り、二人が来たことを知った彼女は走り出して二人に近づく。

「やあ、君がレイノルズかい?よろしく」

「この方がROG社のCEO、モネ様です」

レイノルズをここまでつれてきたエレンが紹介する。

「ああ、エルピス総司令官のレイノルズだ。色々と聞きたいことはあるがひとまずこの2つの機体はなんだ。我々は何も聞いていないぞ」

「言う暇がなかったからね」

「何?」

「レイノルズ!これを見ろ!」

後ろからアデルが呼びかけながら迫る。

追いついたアデルがレイノルズに端末を見せる。

画面には『大気圏上層に未確認生物!?』という見出しのニュースが表示されていた。

「何だ、これは!?」

「上手くいったじゃないか」

驚くレイノルズにモネが話しかける。

「マイズの対処は我々の管轄下だ。勝手に存在を公表されては困る!いやその前に!まだ生物は確認されていないはず!?まさか…」

「そう、こっちで見つけさせてもらった」

そして…と前置きしながらモネがネットニュースの記事をスクロールする。

「その未確認生物の捕獲を行うと発表した」

その言葉にレイノルズはくってかかる。

「協力体制とはいったが先行しすぎだ!こちらの事情も汲んでいただきたい!」

「それで、君らに任せたらどうするんだい?また小さな一機関でなんとかしようとするのか?」

「何を言いたい」

「君はかつての生存大戦での活躍を買われて今の地位にいるんだろう。でもこれは戦場で指揮をとったり、自分も戦場で暴れたりするようなタイプの戦いじゃない。今の君のやり方がまずいとは言わないけど、もっと良い方法もあるってこと」

「具体的には…?」

「市井の人々はマイズをどこかの誰かがなんとかしてくれる一過性の災害だと思ってる。かつてはそれでよかったかも知れないが、もう駄目だ。自分で自分を守らないと駄目だということを、奴らは急に現われこちらの都合など関係ない理不尽な存在だと、人々に共有させる必要がある。そのためには少数精鋭の一機関だけで何とかする現状を変えるべきだと私は思う。つまり、マイズの対策に民間も乗り出す姿勢を示す。その先駆けとして私らで捕獲活動に乗り出す。それを全面的に支援し、監督する対策機関。この構図を作るんだ。マイズという存在に対する知見と組織的なつながりを生かしたことによる関連事件の犯人解明もおまけでね」

レイノルズの感情がモネの目論見を聞いて怒りから戸惑いに変わる。

マイズに関しては全てエルピスで完結させるつもりだった。

そうでなければ対策機関としての立場がない、レイノルズはそう考えていた。

だが彼女は、モネは違うようだ。

「正直なところ君らだけで事態を解決するのも厳しくなっているだろう?」

そう言われてレイノルズも言葉を詰まらせる。

クロアの異能やM.U.の情報がなければここまでの活動ももっと後手に回ったものになっていただろう。

「そっちが根を上げたという形じゃなく、民間からの協力要請という形でマイズの対処を取り付けることができるんだ。無理することはない。うまい話には乗るもんだよ」

レイノルズはアデルに目配せをする。

だが、アデルはその辺りの謀略には疎いのか反応は芳しくない。

「わかった。その辺りの情報公開については任せる」

「そうでなくっちゃ!じゃ早速向かおう!これでね!」

モネは嬉しそうに2つの機体の方に両手を上げる。

「そもそもこれは何です?」

アデルが会話に加わる。

「これは宇宙旅行用のシャトルです。宇宙旅行といっても数時間体験するタイプのものですが。今回はその空宙両用機に捕獲用の機構を取り付け、飛行能力もチューンした特注機になっています」

「そうそう、出発にはもうちょっと準備があるからゆっくり見てって」

どうやらこの特注機に対してモネは自身があるようだ。

お言葉に甘えてレイノルズとアデルの二人は機体を見せてもらった。

機体の周りを回りながら、特に追加された捕獲機構を注視する。

(ねぇ、もうちょっと態度崩してよ、友達じゃん)

(今は仕事の関係ですので)

そんな会話が聞こえたが構わずに見やる。

機構とは言うものの作りは簡素で、空洞の箱を半分に切ったような形状がアームの先端に取り付けられているものが対象的に配置されている。

アームが動けばそれらがかみ合い、何かを挟み込む仕組みだろうことは想像に難くない。

それを見たレイノルズは一つの疑問を思い出す。

「発見した生物というのはどんなものなんだ?」

未知の生物を捕獲するには単純すぎる気がして、モネに訪ねる。

「あー、まだ言ってなかったっけ。時間もないから道すがら説明するよ」

「…私が行くことは決定事項なのか」

「行くよね?」

元よりレイノルズも行くつもりではあったが、モネに有無を言わさずアデル諸共押し込まれ、数分の後飛び立った。

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