新たな同居人
全長10kmの存在が急に立ち消えたことは、その姿を見ていた者達に動揺を与える。
だが、管制室の面々は分かっていた。
何らかの理由でマイズが姿を見せるのを辞めたのだと。
それがクロアの干渉と説得とも言えない対話の末であることを知る者はまだいなかったが。
開かれたクロアの目に飛び込んできたのは、こちらをのぞき込むシュドの奥にいる、人間サイズになったさっきのマイズだった。
女性の形をとっているそのマイズは、黒い影から何かを説明されているようだった。
「生きていることが分かったら、今度は問答無用で討伐されるだろう。何があってもワタシら以外に姿を見せるんじゃないぞ」
耳を澄ましてみると影はそう念押しししていた。
回収は速やかに行われた。
クロアが報告をするために航空機に乗り直すと、レイノルズとホーンズから通信が入っていた。
討伐の確認のためのものだった。
クロアは視界の隅についてくる黒い影と白い物体を横目に見る。
白い方は明らかにさっきのマイズであり、ばっちり生きている。
だがこちらに危害を加える様子もない。
若干後ろめたい気持ちを抱えながらクロアは討伐完了の報告をした。
基地に帰ったクロアに待っていたのは、討伐の詳細を知るための質問攻めだった。
クロアはどう話したものか悩んだ。
ここの人たちは私の特異性を理解してくれている。
だから多少おかしなことを話しても受け入れてくれるだろう。
だが、マイズの生存を隠すためには、そこに至るまでの経緯を偽る必要がある。
結局クロアは影が教えてくれた自身の能力の詳細とその能力でマイズに打ち勝ったというようなことを話した。
多少粗い部分があったが、大人達は彼らなりに解釈してくれたらしい。
そのことに申し訳なさを感じつつも、何とか報告を達成することができた。
しかしながら、正直なところ今生じている問題に比べればそれは些細な問題だった。
その問題とは、あの影と白いのがこちらのことにお構いなしで現われては騒がしくしていることであった。
例によって能力で見える相手は選んでいるようで、クロア以外に気づく者はいない。
クロアがとがめても黒い方はのらりくらりと受け流し、白い方は単語の一つに至るまで気になったことを質問攻めで返してくる。
そのままでは呼びようがないと名前を聞くも、白い方はともかく影の方も名前は無いの一点張りである。
面倒だからそっちで名付けてくれとまで言われたが、良い名前がそう思いつくはずもなく適当に色で呼んだりしている。
自分の部屋でもこんな感じなのだが、幸い同居人に迷惑をかけることはなかった。
部屋を同じくするミルカはどうも事務仕事、特に外涉に関わっているらしい。
彼女の仕事はことが収まってからのようで基地に帰ってきたとき忙しそうにしているのを見かけた。
時々部屋に帰ってきても最低限の身支度を済ませてすぐに寝てしまう。
相部屋に住む者同士の関係性としては良くないかも知れないが、騒がしい人格を内に二人も抱えることになったクロアにとっては落ち着ける時間が多いことが有り難かった。
白黒の二人はよく自身の身の上や能力について話しているらしかった。
クロアが自分の能力に疎いこともあって、能力や自分たちの種族についての話は専ら二人の間で行われているようだった。
勿論至近距離で会話しているため嫌でも聞こえてくるのだが、クロアはあまり積極的に自分の能力について知りたいとは思わなかったので、適当に聞き流していた。
「あなたは感覚の学習に対してオールマティと言うけれど、その変異先が不幸を捉え易いクロアさんになるなんてあり得るのかしら」
二人の議論が難しそうな内容になると聞こえないふりをするのがクロアの日課になりつつあった。
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