2-8 救済執行

その姿を見た老人は歓喜に染まる。

「おお、ついにやった!成し遂げた!やはり私の”進化促進プログラム”は間違っていなかった!!」

衰えた体や人の目など気にしないというように勢いのままに体を踊らせる。

「ましてや、それをあれほどの知的生命体に適応させられるとは!実験の一例なんぞにするにはもったいなさ過ぎる!!あれを次の人類にしてもいいくらいでは!?」

「そう決めつけるのはまだ早いですよ。まだ、我々が見つけた別種の生命はたくさんいます。どれが人類に勝るのか、あるいはどれも人類には及ばないのか。その存在強度はいかほどか」

隣で観察を同じくしている男はあくまでも冷静に評価する。

だが、その威容に男もまた興奮を隠せていない。

老人はその評価に満足せず、さらに語気を強める。

「新生第二原種が勝って当然だ。ここまでお膳立てしたのだ。あれは無敵の生命だ。相手には視覚に作用して自分の姿を見せておきながら、相手からは手出しできない。なにをするにも一方的!倒しようのない無敵の生命だ!」



「近隣都市の避難状況はどうなっている!?」

「大部分は避難を完了していますが…」

「全部じゃ無いのか!?」

「一部の区画では『不正確な情報で市民を混乱させるわけにはいかない』とのことで…」

「馬鹿野郎共が!!」

「…!対象に動きあり!」

孵化した白影は歩き出す。

残っていた人々が倒れる。

取り残された民衆に、何の前触れも無くただ幸福な死が与えられる。

今を楽しんでいた者も明日を待っていた者も昨日に囚われた者も、全ての希望を無視して終わりが来た。

「推定被害者がもう2万を超えます!!」

「効果範囲が広すぎる…!避難区域が意味を為してない…!」

「地球の反対にでも行かないと避けようがない!!あの巨体じゃ国ひとつ分横断するのも時間の問題だ!」

「奴が行動を開始した以上正確も不正確も無い!!理由なんざ何でも良い!上層部でも政府でもどこにでも掛け合え!避難を実行させろ!逃げる他にどうすることもできん!」

管制室の喧騒が途切れぬ一方でレイノルズはクロアの部屋にたどり着いていた。

管制室からの通信で事態を把握した彼もまた焦りは最高潮に達していた。

部屋に入ってきたレイノルズの逼迫した表情を見て、クロアは深刻な事態であることを察した。

まっすぐこちらを見る司令官の顔を見て、自分が必要とされていること、自分が必要になるような異常事態が生じていると理解した。

「もう一度力を貸して欲しい」

その言葉に躊躇うことなくうなずく。

ヴァイの侵入から時が経ち、落ち着きはじめていたミルカに「行ってきます」と告げ、クロアはレイノルズと共に管制室へと向かった。

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