2-5 Monster Universe 3

「じゃああんな都市の側で孵化されたら!!」

新たにもたらされた情報によって部屋が騒がしくなる。

けれど、動き出す者はいない。

皆、実体を持たない虚空の生命体に対する手立てを持たないからだ。

武力攻撃による火器はおろか雲や鳥といったものさえあの影に干渉はできず通過することを確認している。

今彼らが相手しているのは、「見えている」ただそれだけの生命体だった。

相手からの何かを感じることしかできず、反応させることはできない。

相手が何をしているのか。

向こうから伝わる情報は視覚からのそれだけである。

誰が何をいうでもなく各々が作業に戻る。

何もできないが故に案も出ないのだ。

しかし、当事者はエルピス、彼らだけではなかった。

「司令、M.U.の会長と名乗る人物から連絡です。トップ同士直接話がしたいと」

「M.U.?まあいい、個人的な要件なら司令室の方に回してくれ」

そういってレイノルズは足早に管制室を出る。

廊下を少し歩いて別の部屋に入る。

そこは司令室、レイノルズが個人的な業務を行う場所である。

レイノルズは自分の空間に入ると扉の鍵を閉め、窓も閉まっていることを確認する。

そして、しばらくの間静止する。

静寂を秘匿の成立の確認とした後、通信を開く。

「お待たせした。M.U.トップ直々に話をしたいと聞いているが相違ないか」

「その認識で問題ない。私はアノレマ。Monster Universeの創設者であり会長を務めている」

「エルピスの総司令官レイノルズだ。率直に聞く。どういった要件で連絡をしてきた?」

「随分と余裕のない受け答えだ。まあ無理もない。時間が無いのだろう。我々の部下がやらかしてくれたからな。連絡をしたのは他でも無い。その後始末に我々も参加させて欲しい。騙され、振り回され挙げ句人類滅亡一歩手前の事態を引き起こしているだけでも組織として立つ顔がないというのに、その被害まで全て誰かに拭ってもらってはいよいよ名前も掲げられない」

「…我々としては、現状手がない。その申し出は正直有り難いが、そちらに何か手でもあるのか?」

「あるとも、持ちかけておいて用意が無いなどという無様はさらさないよ」

「具体的には?」

「まず、資料を其方に送る。確認しながらでも通話はできるだろう」

通知音と共にレイノルズの端末に書類データが届く。

レイノルズは万が一にも誤って消したりしないよう、一つ一つ丁寧に確認しながらファイルを開いた。

一拍おいてからアノレマが話し始める。

「今回、あんな破滅招来体をうちに持ち込んだのはNew Orderという組織だ。そういう生物を用意できるってことはどうにかできる方法も知っているんじゃないかって思ってね。いくらか探りを入れてみたんだ」

「何か分かったのか」

「…気にくわないことにそれさえ想定内みたいらしい。忍び込めたデータベース上に今回の事態を理解するのにおあつらえ向きのデータが置いてあった」

ふーっというため息がマイクを通じて聞こえる。

「第二原種?とやらがもう一体いる」

「!!」

「唾を呑んだね。こっちがばらすだけの価値はあったようだ」

「あれがもう一体!?」

「こっちが把握しているのは、君らが解析したであろう我々が元々受け取っていた情報に加えてそれだ。前者は今更確認する必要はないだろう。」

「第二原種の生態と孵化だな。」

「そう。だからもう一体の存在について話したい。君は、君の組織は、そのもう一体を確認しているかい?」

「…それらしい存在は確認している」

「じゃあ話は早い。そう言うだけの根拠もあるんだろう?」

「隠す必要もないか。先日現われた飛行体については知っているか」

「映像で見たね」

「あれを駆除する際に協力してもらった身元不明の少女を一人保護している」

「見事なまでにうさんくさすぎる存在だね、そりゃ」

「第二原種とかいう存在は、宿主の生体反応を模倣して肉体を操作できるという。入手したデータに依れば彼女もそれと同様の能力を持っているらしい。相手の意識に侵食して、肉体や精神に干渉する、とある」

「確かめる術はないが、状況から見て間違いないだろうな。もう一体の第二原種が彼女を指していることも、彼女が来てから起こった不思議な現象の理由もその事実で間違いないだろう」

「今回のマイズについて、こっちでもできるだけの事はやってみたけどね。正直お手上げだよ。あいつは言ってしまえば人間みんなで見ている幻覚だ。見えるだけで実態がないなんて、本来何ら病気だなんだと言われるだけだろうね。私らからの提案としては、その少女を利用するしかないと思うよ。同族をぶつける。今用意できる解決法はそれしかなさそうだ」

「…情報提供感謝する。提案も含めてこっちでも再度検討しよう」

「良い返事だ。言った甲斐もある」

「New Orderという組織についても知りたいな。彼女の存在を知っているというだけで何らかの関わりがあることは間違いない」

「それについてはある程度想像がつくだろう。こんなことができて、なおかつ実行に移す奴なんて一人しか私は知らないよ」

「表に出てこない以上生死も不明だったが、生きていることは確実か」

「だろうね…。とりあえず私が教えられることはその辺りだ。あとはその少女がよろしくやれるよう頑張ってくれたまえ」

通話を終えたレイノルズは深く考えるよりも前にクロアを探し始めた。

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