2-4 天_鳴動 2


「第二原種について知りたいと?」

レイノルズはアデルの元を訪ねていた。

「おそらく…、M.U.のメンバーは管理下にあった未知のマイズによって、なにかしらの肉体反応を望まずに引き起こされ廃人化したと考えられる。だが、そんなことをどうやって引き起こしたのかが依然として不明だ。そこでだ、言っていただろう。奴と第二原種の性質が似ていると。何が似ていて、何が違うのか参考までに聞かせて欲しい」

「私も直接会ったことはありません。伝わっている情報しか話せませんが」

「構わない」

「第二原種はいつかも言ったように”生物の感覚器官の反応”に住んでいました。故に彼らは宿主たる生命を自分たちの能力を使って殺すなどということはしません。明らかに破壊を振りまくような存在については例外ですが、本来彼らはその能力を幸福感情の増幅、不幸感情の低減などに用いて、宿主の生物の免疫強化、生存意欲促進などに役立てていました。」

「推定上の関係者が廃人化、死亡している奴とは真逆の存在という訳か。だが、奴が我々人類をその『破壊を振りまく存在』と認識している可能性は?」

「それはないでしょう。彼らは憑依先となる生物の種類にこだわりません。極論、自分達以外の生物が一定数生き残るような状態であれば良い。人類が他の生命を脅かす存在であったとしても人類の個体数が保たれている以上は人類を宿主と認めると思うのですが…」

「仮にあれが第二原種とやらだったとして、何か事情があるのは間違いないな」

マイズが現われ、観測できるようになっても事態の進展が見込めない。

対策機関としては気をもむ時間が続いた。

だが数日の後、そんな時間は終わりを迎える。

「マイズに動きが!!」

オペレーターが叫ぶ。

「なに!?」

「対象が腕を上げ始めました!!」

「何をする気だ?」

管制室中の人が中継モニターを見つめる。

黒い影は覇気の無い万歳のような姿勢になる。

腕を前に倒すように地面と垂直に回転させる。

やがて腕は背中側で上がりきらなくなる。

手がゆっくりと開かれる。

何もないはずの空中で、まるで台に手を置いているかのように腕を支えに体を持ち上げる。

足が海から上がり、水がバシャバシャと音を立てて落ちる。

膝を少し曲げ、手と同様に足も空中で静止する。

体が持ち上がったことで相対的に下がっていた腕をもう一度回転させ、限界まで背中側で持ち上げる。

「さながらパントマイムだな」

後ろに伸ばした腕と少したわんだ足が空中に体を支えている。

「孵化!そういうことか!」

「どういうことだ!?」

「あれが蛹なんだ。空中に固定された蛹なんだ。」

「じゃあ…!」

「たぶん、あれから成虫が生まれるんだ。もしあれが孵ってしまったら何が起こるのか…」

「孵化したマイズは遠隔での肉体反応の強制励起が可能になるという。具体的にどういうことが起こるのかあまり想像できんが良い予感はしないな」

「それについて詳細が分かりました」

部屋に入ってきたアデルが資料を見せながら会話に加わる。

「失礼。M.U.のコンピュータの解析が進んだので結果をお持ちしました。私も手伝いをさせていただいていたので、進捗を知らせに来ました」

「お前そんなことしてたのか」

「事態を解決するために私もできることをしようと思いまして。とはいえ解析は全て終わった訳ではないので担当者たちにはまだ頑張ってもらっています。しかし現段階でも重要なことが判明しました」

「何が分かったんだ」

「あれが蛹から孵ったあと何をしようとしているのかです」

そういってアデルは資料の一部分を指さす。


当個体は■■■■と呼ばれる種族に属する生命である。この種族は個体毎に学習する反応あるいは感情に対して適性が存在する。今回譲渡する個体は「幸福感情」に対して驚異的な学習速度を持つ個体である。

……………………

……………………


「幸福感情…!?それを学習、転写するなら……なぜそれで廃人化するんだ」

「程度の問題でしょう。恐らくこの個体によって引き起こされる幸福感情は薬物での反応さえ凌駕するほど強力なもの。それこそ脳が耐えきれないほどの」

アデルは推測を話しながら依然と次の項目を示す。


対象の適正及び進化で取得する機能を利用した人類への強大な幸福感情の強制投与による大規模な人格破壊現象を実行することが可能と考えられる。

……………………

……………………


「『大規模な人格破壊現象』…!?」

「冗談じゃない。テロなんてレベルじゃない。災害じゃないか」

「ですが、おそらくこの事態はM.U.の本来の目的ではなかったはずです」

「どういうことだ?」

「M.U.の理念は人間の上位種を擁立させ、それによって自然破壊を引き起こす人類の生産活動を抑制させるというもの。これは、人類自体は存続していることを意味していて滅亡させることが目的ではありません」

「ではどういう?」

「恐らくこうでしょう。『こうすれば人類の上位種を作り出せる。後はそれを制御すれば良い』といった旨のことを教えられていた。ですが、生み出されたマイズは到底彼らに制御できるものではなかった。マイズは手に入れた能力で彼らを無力化した後、さらに進化するための準備をしていた」

アデルは資料からモニターに目線を移す。

枷につながれてうなだれた人間ような姿勢で空中に静止する黒い影を見つめる。

「そして、その準備は最終段階に移った。孵化が成った後引き起こされるのは、極大の幸福感情の強制授与によって人類全てがテクノブレイクする最悪の救済劇です」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る