2-3 Monster Universe 2

最後の部屋はうってかわって質素であった。

いくつかの机があり、パソコンと書類がいくつか乱雑においてある。

さっきまで作業が行われていた名残なのかパソコンの画面が着いたままになっている。

「どうやら当たりのようだ」

レイノルズは目に入った一つの紙束を指す。

「『感覚位相幻体の孵化手順』?」

「感覚…、幻体…。やはり第二原種が関わっている?」

「それらとの関連性は未だ不明としても、孵化というのがきな臭い。中を見てみよう」

書類には以下のように記されていた。


個体名:N/A

種族:感覚位相幻体

受領元:N.O.

概要:感覚神経並びに運動神経への信号等体外的な要因に起因する対象の肉体反応を学習する。加えて、学習を繰り返した個体はその反応を憑依先の対象に適応させ、宿主の意思に関係なく自由に様々な肉体反応を引き起こすことができる。

……………………

……………………

孵化について

対象にN.O.より当個体と同時に受け取った■■■の投与及び環境再現P#3下での3週間の育成、最後に大衆の中での膨大な量の感情学習による生物機能の強化によって以下の生物的進化が期待される。

……………………

……………………

対象への肉体反応を、憑依する過程を無効にして、幻体本体の意思決定のみを条件として遠隔かつ無制限に引き起こすことが可能になる。

……………………

……………………


ある程度読み進めたところでレイノルズは書類から目を離し、他の隊員にそれを渡す。

「他にも確認したいところは山ほどあるが、今知りたいことについてはこのくらいか。コンピュータの方はどうだ」

「だめです。ロックがかかっています。一応やってみますがここですぐ開けるかどうか」

「わかった。調査は継続するが2階の報告も聞きたい。私は一旦部屋を出る」

「あ、では私も」

レイノルズとアデルは長い廊下を戻り、1階を超えて2階に向かった。

2階には色々な研究機材こそあったもののマイズに関係したものは見つからなかったという。

報告を受けた二人は、一度建物を出て外気に触れる。

「ん、本部から連絡か」

見計らったようにレイノルズに連絡が入る。

「なん「司令ですか!?」お、おうそうだ」

「エインが…死んだんです」

「なに…!?」

「なんです、何があったのです」

アデルがのっぴきならない様子に口を挟む。

「例のマイズに干渉されていた者が亡くなったという」

「!!」

「急に笑い出したかと思ったら穏やか笑みを浮かべてそのまま眠るようにっ!一瞬のことで何も手の打ちようがなく…っ。」

「分かった。彼の遺体も調査対象だ。判断はそちらに任せる。こちらも重要な情報が手に入っている。私が戻ったらすぐに会議ができるよう人を集めておいてくれ」

「あっお待ちください。まだ伝えることが」

「何だ」

「恐らくそのマイズらしきものが…「現われたのか」…はい。本部とは距離があるので映像越しですが。映像は確認されますか?」

「今確認すべきなのだろうがいちいち情報を整理しあうのも面倒だ。戻ったら私の話もその映像も含めてすべての情報を統合したい。映像は本部で見せてもらう」

分かりました、失礼しますと通話が切れる。

「アデル、すぐに戻るぞ。こちらの足踏みを向こうは気にしてくれないらしい」

レイノルズは地下で見つけた書類とデータを調査中の隊員から受け取ると、あとの調査を一任して基地への帰路に走った。

「戻った、まずは映像を見せてくれ」

レイノルズ司令官が管制室に入る。

「はい、こちらが出現したマイズです」

オペレーターが話し始めると同時にモニターに映像が映し出される。

「太平洋の臨海都市沿岸に出現したマイズです。見た目は真っ黒な魔女然としています。ただ顔に相当する部分に主なパーツは口以外に見られず、服や髪もそれらしき形を取っていますが肉体との境界は確認できていません。この辺りの特徴はエインの話と概ね一致しています。しかしながら体高は実に10000mを超えると見られていて、およそ視界に収まる範疇を超えています」

「10000m …、10kmだと!?」

「最初は都市中央部に出現しましたが海へと移動しました。可視光線での観測は可能ですが、未だ実体は持たないようで出現や移動による被害は出ていません。今は海上で静止しています」

「ふむ、孵化の準備か?」

「孵化?」

「ああ、こちらでは奴がどんな存在か、その一端が分かった。奴は人間の神経などの反応を覚え、それを取り憑いている人間に自在に引き起こすことができるようだ」

書類のコピーをオペレーター達に回しながら、今度はレイノルズが報告にまわる。

「では、その能力でエインやMUの連中も…!?」

「いやそれは分からない。だが、M.U.の連中はこの能力をさらに強化するつもりだったようだ。これが成功したかは不明だが奴の動きから成功していたと見ていいだろう。拠点にあった書類ではこの強化を孵化と記述していた。エインの死については何か分かっているか」

「はい、私から説明します」

イルスが声を挙げる。

「M.U.のメンバーが廃人化していたことは皆さん承知でしょうが、つまり彼らは死んでいません。廃人化こそすれ死ぬほどの影響は受けていなかった。ですがエインはそうでなかった。しかしさらに彼らとエインで異なるのは、死ぬ直前の彼は廃人化などせず、かなり穏やかな精神状態でした」

「では、エインとM.U.では受けた影響が違う?」

「その可能性は高いです。エインの遺体から分かったことですが、脳へのダメージはほとんど見られませんでした。脳が幸福な感覚になったまま一瞬で機能を停止した…と表現するのが良いでしょうか」

「それがマイズによって引き起こされた?なぜそんなことをする?奴はどういう存在なんだ?」

視線がモニターに集まる。

映っているマイズは白い口に笑みを浮かべながら、ただじっと海で佇むのみであった。

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