2-2 Monster Universe
「司令、例のマイズに関係した情報が!」
「何だ。何がわかった?」
「”特定の人間にのみ見える黒い少女風の幽霊”といった触れ込みで調査を行っていたのですが、Monster Universeという組織のメンバーが類似した内容を話していたとか」
「Monster Universe?」
「はい、生物学を専門とする者たちで構成されていた集団なのですが、その思想によって周囲からあまりいい目で見られてはいなかったようです」
「どういう組織なんだ?」
「食物連鎖の頂点に立つ人間が、他の生物や自然を乱し食い荒らしていると主張すると共にこの行為を許されるものではないと非難しています。それだけであれば行きすぎた自然保護活動かもしれませんが、彼らはそうした人類の行いを改めさせるには食物連鎖で人間のさらに上に位置する生物を擁立させるしかないという旨の主張を続けていたようです」
「そこでマイズか…」
「はい、彼らは”蟻”についても新たな地上の支配者であるとして駆除の批判、妨害を行っていたようです。そういった背景から現在調査中の未確認マイズとの関係性は強いとみられています」
「彼らが見つけたマイズを独自に擁立したと考えられるか…」
「ええ、我々調査班もその見解で調査を進めています。ですが奇妙な点が」
「何だ」
「先ほど組織のメンバーが話していたと言いましたが、彼らはある施設から確保されています。その際、施設にいた者全員が廃人となった状態で発見されているのです」
「なるほど奇妙だ。ますますきな臭い。だが、彼らはなぜ廃人に?」
「詳しい原因は不明です。担当医によると脳が破壊されていて、まるで薬物乱用者のような状態だとか」
「それが本当にマイズの仕業であるとするならば、視界でじっとしているというウチの職員とは話が食い違うな。複数のマイズが現われているのか、あるいはただの思い過ごしか」
「その辺りの確認や情報収集も含めて、該当施設に調査隊を派遣する計画が立てられており、司令に確認をいただきたく思います」
「よし、調査は勿論行ってくれ。その上で私も調査に同行する。マイズのことも分かるかもしれん。アデルにも声をかけておいてくれ。」
数日後、彼らはMonster Universeの拠点の一つであるという建物の前に集結していた。
「ここがそうか…」
彼らの前にあるのはコンクリート製の無骨な建物だった。
「生憎、この施設を利用していたメンバーは皆廃人状態になっていたせいで、他の拠点を聞き出すことはおろかこの拠点の詳細も不明です」
「件のメンバー達の状態から、調査対象のマイズは精神を害する能力を持っている可能性がある。異変を感じたら即撤退だ」
司令官の注意喚起と共に建物の入り口が開かれる。
「では調査開始!」
細長い建物の中は、端から端をつなぐ長い廊下の両脇に部屋が並んだ構造だった。
それぞれの部屋は目的別の研究室などに使っていたのだろう。
ドアのガラスから部屋の中に備え付けられたパソコンや周辺機器、本の山が見えた。
「ここでは生物学や薬学あたりの研究やそれを利用した活動をしていたようです。特にマイズに関係したものは見つかりません」
部屋の中を確認した隊員が報告をする。
「この建物は、上は2階までだが下にも続いているようだ。」
一同は発見した壁に貼り付けられた地図に群がって建物の内部を把握する。
「どっちが怪しいと思う」
「下ですね。上はおよそまっとうな研究集団としてのカモフラージュ…というか純粋な研究施設としての役割で使われていたのでしょう」
「では地下に向かうとしよう。上も調査は続行してくれ。何かあったら連絡を」
司令とアデルを含めた調査隊は、2階を調査する一部の隊員と分かれて地下へと降りる。
地下も作りは同じであった。
だが、内部はまるで違っていた。
「想像以上です。およそ民間…いえアマチュアの組織でこれほどのものが揃っているとは」
そこにあったのは過去に出現、駆除されたマイズの死体やその一部、そしてそれらから作られたであろうキメラらしき生物であった。
「マイズが深く関わっていることは疑う余地もないですが、書類から見て我々の探しているマイズではないですね」
適当に選んだ部屋の中で見つけた書類をめくりながらアデルが言う。
「まだ他の部屋がある。順に見ていこう」
調査隊は奥の部屋へと進んでいく。
「誰かに攻め込まれても防衛ができるつくりなのでしょうか」
地下の道筋は、一階ずつ下る階段が廊下の端に交互に作られた立体的な一本道であった。
それ故に迷うこともないが、最下部の部屋へたどり着くにはすべての廊下を踏破する必要があった。
「地下1階は過去に現われたマイズの資料だけだったな」
「地下は2階で終わっているようです」
先行していた隊員から報告を受ける。
「よし、ひとまず地下1階は後回しだ。先に地下2階を見てしまおう」
地下2階は1階のそれをさらに超える内容だった。
およそ完璧な状態のマイズの死骸やどこから盗ってきたのかマイズ関係組織の機密書類のコピーまでもがおいてあった。
「これは…、シャガンゴ!”蟻”の死骸じゃないか!」
死骸の一つを見たレイノルズが驚きの声を上げる。
その声には怨嗟も含まれていた。
「これが先の大量絶滅の直前に暴れ回ったという最初のマイズですか」
若い隊員が目を見開いて眺める。
2階建ての家すら超えるほどの体躯のそれは直立に近い姿勢をとり、伸びた尾を地面につけた形で安置されていた。
恐竜の昔の復元図を思わせる姿勢だ。
それだけの大きさであるためか死骸を納めた保存容器の下はさらに床が低くなっており、上半身が部屋に突き出るような形で保管されている。
真ん中で避けた下顎、指のない肉塊ような2対の手、筋肉質な足。
長く伸びた手足はまるでバネかカタパルトの様に折りたたまれた構造になっている。
「こいつらは素早く伸び縮みするこのアゴか手をパンチみたいに繰り出して家を破壊したり、人を直接殴り殺したりしたのさ。おまけに足を見れば分かるだろうがこいつら跳躍力もキック力もある。下手な壁や防備は役に立たない。馬鹿みたいに堅い皮膚まで持ってやがる。こいつらを殲滅するのにどれだけの仲間が犠牲になったか」
レイノルズは力を抑えつつも何かの液体で死体を満たした大きな保存容器を蹴りつける。
「どうやらここでマイズを新しい支配者に仕立て上げようとしていたことは間違いない。そして、それが現実的なところまで進んでいたことも確かでしょう」
レイノルズに気の済むようにやらせつつ、自分は続けて部屋の書類をあさっていたアデルが話す。
「既知のマイズの中で彼らが取得できた一番理想的な保存状態であるものがここにある。そうなれば、この先の部屋にあるものはさらにその先、未知のマイズの可能性があります。行きましょう」
気を抑えたレイノルズも隊に戻りつつ、彼らはかつての破壊者が眠る部屋を出て最深部へと歩を進めた。
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