1-5 打開策

いくら見慣れぬ環境といえど一度訪れた管制室にたどり着くことはクロアにとっても容易であった。

クロアは改めてモニターをしっかり見る。

巨大な虫の様な怪物が海に佇んでいる。

明らかに水面に浮くようには見えないが、それは水面に足をつけ、頭をもたげ細長い口を水につけていた。

その行為が何なのかは分からない。

けれど、何か嫌な予感がした。

先ほどクロアが焼かれながら見た光景には上の方に物体があった。

それが何かを意味するのならば、ここでの上か下で何かが起こる、あるいは何かがある。

クロアにはそんな直感があった。

モニターから目を反らし、見知った姿に近づく。

ホーンズである。

くたびれた髪と皺のある白衣は後ろからでも見分けがついた。

クロアの呼びかけにホーンズとその隣にいた二人の男性が反応する。

クロアはさっき自分が見た光景とそれに基づく直感について拙い言葉ながら必死に話した。

3人の大人はいずれも少女の現実味のない話を笑ったりなどせずに耳を傾けた。

ホーンズはそれに驚いたような顔をし、軍服の男は何かを深く考えるような仕草をした。

「直下の海底火山新造を察知した?」

少女の話が一段落付いたところでホーンズが少女の話について推測する。

「描写はあっている」

「叙述トリックじゃないか?」

「しかし、さっきの実験結果がある」

「再現性は低い。ここで結論を出して良いものではないと思うが」

「そう言っていられる段階は過ぎている。有効性が確かめられるなら利用するべきだ」

3人が始めた議論は意見の相違から多少の衝突があったが、軍服の男の一声で終着に向いた。

「今考えるべきは奴の打倒策だ。研究室長、彼女を電磁斥力装置の代わりに使えないかね」

「動きを止められるというのであれば、奴を一撃の元に葬る。それしかありません。1つだけ作戦があります」

そういってホーンズは作戦の概要を話し始める。

「…というものです」

「よろしい。準備を頼む」

「そんなあっさり!?いいんですか」

「構わん。どうせこれ以上兵器も頼りにはならん。外が駄目なら中から隙をつくる。とはいえ、その作戦は上に報告がいる」

軍服姿の司令官はそういうと管制室を出て行った。

管制室を出て、しばらく歩いたところで司令官は部屋に入る。

モニターには彼より上の肩書きの人間が多数映っている。

直接の上司でない人間の何人かも野次馬精神で映像越しに見に来ている。

彼はこの雰囲気が苦手だった。

人前で話すことなど今更だが、どういう揚げ足を取られるか分かったものではない。

「まずは成果を聞きたい」

画面越しの一人が話し出す。

「戦術核の効果はどうだったのだ?」

「効果はありました。結果として1発ずつの2回命中しました。2回共において、肉体は蒸発して跡形もなくなりました。が、復活するのです。気体あるいはプラズマになってなお固体として通りになります。恐ろしいまでの復元力です」

「では凍結はどうだ?高温が無理なら低温はどうだ?」

「ROG社との連携による旧SKYWEB社の電磁網を用いた斥力装置による空中拘束と冷却作戦の実行も試行済みです」

「では成果は…」

「氷りはしました。ですが表面だけ。おそらくあれのエネルギー生産能力は動物のそれや火力発電、原子力発電のそれではないのでしょう。高温を保ったままの内部の熱源と放出された超高濃度の温室効果ガスによって表面の凍結も解除されました。金と物資に糸目をつけなければ維持も可能でしょうが対策として現実的ではありません」

それを聞いて、驚きや諦めの言葉とならばという提案が交わされる。

「私に一つ策があります」

その言葉に注目が集まる。

「彼らは元々異なる世界の住人です。入り口におびき寄せて、その入り口を閉じてしまえば解決する」

「具体的にどうするのかね」

「入り口を閉じるのは、時空凍結弾で可能です」

「あれをつかうのか」「論外だ」「下手をすると戦術核よりひどいことになる」

「では、他に案はあるのですか。冷たい核と呼ばれるあれを使うのは、私としても本心ではありません。しかし、あれは今の段階で我々の科学が手に負える存在ではありません」

「融界ごと消すとして、どうやってピンポイントで弾を撃ち込むんだ?」

「バンカーボルトです」

バンカーボルト、それは人工衛星に搭載された、大気圏突入に耐えるだけの設計が為された巨大な杭である。

先の大量絶滅時に、ある大国が上下関係を振りかざして従属国家の衛星軌道上に打ち上げた自由落下を利用する衛生兵器である。

「あの大戦の残骸をか」

武力としても抑止力としても利用価値やコストは大きく他の兵器に劣る示威行為の具現であるその兵器が多用されることはなく、大国の劣勢とともに歴史から消滅した兵器である。

「あれを打ち込むのです」

「現実的じゃなさすぎる。あの速度で飛び回る相手に時間差で打たれる杭をどう打ち込むんだ」

「それは承知の上です。そして、その問題を解決する方法も用意しています」

「歴史の残滓と冷たい核の同時利用か」

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