1-4 片鱗
「研究室長、その話は本当かね」
「ええ。さきほどの蚊の奇怪な動き、あれはこの少女によるものと見ていいでしょう」
「あれだけの怪物を制御できる力とは一体?」
「しかし少し動きを止められるだけでは意味がない。先ほど、奴が表層のマグマを軒並み飲み干しかけているところを狙ってみたが現時点でこちらの権限で使えるだけの兵器は軒並み効かなかった。」
「なんと…!!」
「奴の生存能力は異常だ」
「今奴は?」
「満腹で眠くなったからか知らないが数時間止まったままだ。睡眠中と推測している」
「なるほど、ではその間に対策を考えるしかありませんね」
ホーンズと別れ、研究室を出た二人は他愛ないやり取りをしていた。
「ところで、シュドはどういう人なの?」
「まあ、手荒い方で少し有名なだけです。手に負える程度な危険生物に対処したり、ガードマンしたり、そんな感じです」
「じゃあ私のことも守ってくれるの?」
「勿論です」
「おお。じゃあ…」
そんな会話を邪魔するようにクロアの頭に声が響く。
耳を塞ぐイメージは続けているのに、その声は一定の大きさを保っていた。
うるさいと心の中で訴えるも声は消えない。
そんなクロアの抵抗故か、クロアの異変に気づくこと無く、シュドは何かをポケットから取り出し操作する。
しばらく画面とにらめっこしていたシュドが少し目を見開いた後、振り返ってクロアを見る。
「管制室へ行きます。ついて来ますか?」
頭の声を鬱陶しく感じながらもクロアはうなずいた。
管制室の様相は慌ただしく、到着した二人を気にかける者は居なかった。
「まっすぐこちらに向かってきます」
「何故だ、こちらにはマグマ資源なんかないぞ」
「理由があるとすれば、先ほどの攻撃が我々によるものだとばれたといったところか」
「さっきの少女の件だとは?」
「あり得ん話ではないが判断材料が無い」
「いずれにしても、あんな巨体と速度では近くを飛行されるだけでこちらに被害が出る。どうにかやりこめなければ」
管制室にいる面々がやいのやいのと話している。
そのとき、ガアンと轟音が響いた。
同時に伝わる衝撃にクロアは姿勢を保てず倒れかけたが、シュドが受け止めてくれた。
「何だ!」
「攻撃です!奴からの爆撃です!」
「奴から!?詳しい状況は!?」
「奴は体を斜めにして腹部の砲門をこちらに向けています。そこから…岩です。岩が放出されています」
「岩だと!?」
「およそ岩とは思えない硬度と速度です。臨海部分の被害拡大中です!」
「とにかく耐えろ。少しでも被弾を防げ!研究員はなんでもいいから調べろ。奴の行動を止めるなり、倒すなりできるものを考えろ。戦闘員は…あんな奴相手にどうこうできん。避難や治療を手伝え。司令部!なんでもいい。武器を使え!気を引くくらいはできるだろう!」
「「「はい!」」」
事態を収拾せんと動き出したオペレーターたちが何人か管制室から出て行き、少しの静まりをみせる。
司令官と呼ばれる男は自分の椅子に腰掛ける。
「爆撃に使われている岩はおよそ自然にあるようなものではありません。表面が研磨済みのダイヤモンドで覆われ、内部はさながら着弾式の銃弾です。しかも恐るべき事に爆発には火薬などではなく水蒸気が使われています。着弾を感知した瞬間急激に内部の水が熱され、爆発するようです」
「ずいぶんとエコな兵器だな」
報告を受ける司令官は皮肉めいて言うが、その顔は浮かない。
再度大地が揺れる。
話し合っていた研究者も、避難途中の非戦闘員も、司令官もその周りのメンバーも、バランスを崩して転倒する。
「今度は何の攻撃だ!?」
「攻撃ではありません!地震です!」
「こんなときにか!?」
「いえ、震源はこの基地の真下からです!…海底火山活動?それがこの地震の正体!?」
海底が隆起する。
地盤が胎動する。
本来あるはずのない場所へマグマが持ち上がる。
無理矢理押し上げられた溶岩が岩盤に出口をこじ開けて噴出する。
クロアはシュドに続いて基地を右往左往していた。
他の人と何かやり取りをした後走り始めたシュドを追いかけることにクロアはいっぱいいっぱいだった。
一応シュドの方もクロアが付いてこれるように速度を落としているのだが、体力差を埋めるまで気遣えるほど状況は余裕では無かった。
クロアの頭の声は響いたままだった。
むしろ強くなっていると感じる。
そのときだった。
ふっと足の感覚がなくなったような感じになり、勢いのままクロアは倒れそうになる。
だが、地面に体を打ち当てることはなかった。
それどころか勢いのまま体から魂が抜け出たような感覚になった。
その不思議な感触に戸惑っていると、ふと体が熱くなる。
それは自覚するとともに温度を上げていく。
みるみる上がった体感温度にクロアは訳も分からぬまま焼けそうになる。
何が起こっているのか、手がかりを求めて必死に辺りを見渡す。
何かが上にあることに気がついた。
遠くて何かは分からない。
暑さはいよいよ限界に達して気を失いそうになりながら唯一見える異物であるそれを掴もうと手を伸ばそうとした。
手の感覚がそもそもなかったが、その考えが功を奏したのか体が浮かび上がるようなって意識が一瞬途切れた。
気がつくと、そこはさっきまでの廊下だった。
見渡しても変化は無い。
シュドもいない。
おいて行かれてしまったようだ。
けれど、びっしょりと汗ばんだその体はあの灼熱の記憶を残している。
クロアには詳細がさっぱり分からなかった。
けれど、私にも関わる何かが起きている。
何かを知るなら管制室しか無い。
そう確信したクロアは管制室に戻るため走り出した。
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