筋肉バカ先輩の話を聞いてくれる?

ろくまる

筋肉バカ先輩の話を聞いてくれる?

 先輩は「筋肉バカ先輩」なんてあだ名がつくほどに筋肉を愛でる事に余念がない。いや、いじめぬく、だっけ?

 いや、やっぱ分かんないわ。


「山﨑? どうかしたか?」

「いーえ、なんでも。ほら、あと一周」


 軽くストレッチしてからまた走り出す。先輩は私の後ろや隣に行ったり来たりをして、道行く人と私とを配慮する。うろちょろしてどうしたと聞いた時は「女性かつ長距離に慣れない山﨑のサポートしたいけど、歩道狭いからさ。集中しにくかったらごめんな」だって。くそぅ、優しいじゃねぇかこのぅ。

 ……私と先輩がこうして走るのは、些細なことだった。

 元々陸上部で走るのが日課だったせいか、嫌な事があるとカラオケじゃなくて短い距離をランニングで発散していた。東京に上京したてで使うお金がないから、ともいうけど。

 そんなバイトと大学を行き来しながらランニングする生活をしている中、ふとバイト先の先輩が筋トレに詳しいと耳にした。それが「筋肉バカ先輩」。

 本人も体育大に通っているのに、バイトの後にジムやらボルダリングなどの施設に遊びに行く体力バカ。そして、ここの筋肉をこう使ってやると効率がいい、この筋肉今育ててるんです、なんて話をするからそんなあだ名がついたらしい。

 なら長距離走るのに向いたところ知ってるかな、と声をかけたのがきっかけ。それから競技ではない長距離だから楽しくてバテた話をしたら、一緒に走る事になったのがここ数ヶ月の私達。


「山﨑、お疲れ。あとちょっと先にランステあるからそこで着替えようか」

「分かりました」


 そうして走り切ってからのシャワーと着替えで心地いい疲労感を感じながら帰路に着く。


「先輩、ありがとうございます」

「いいよ、俺も楽しいし」

「その、日頃のお礼っていうか、ご飯食べに行きません?」


 思い切って先輩を誘う。いいよ、と笑う先輩に思う事。


 ──ちょっとは私の事、意識してくんないかな。

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