科学者たちが導き出したたった一つの賢いやり方

てこ/ひかり

実験3247198回目

「博士。どうされたんですか?」

「うむ。アフィニティ精製したターゲットタンパク質複合体が特異結合の分子リガンド反応で上手く分離しなくてね」


 机の上に置かれた小瓶を前に、N博士はさっきから頭を抱えていた。


 苦節20年。

 今までどんな化学式や方程式を試しても、目的の実験は一向に成功しなかった。悩める博士の横で、助手が走査型電子顕微鏡S E Mを覗き込んだ。


「本当だ。α-グルコシダーゼが上手く遊離していませんね。アルマイト処理はしましたか?」

「いや。確かに陽極酸化皮膜も考えたが、この場合射出インジェクション成形も考慮に入れキリンス処理の方が効果的ではないかと思ってね。さっきから生物化学的酸素要求量C O Dを調べているところだ」

「なるほど。そうか、フェノールフタレイン溶液が含浸しているから免疫グロブリンImmunoglobulinが定常領域を保てないのか……」


 何か画期的な方法はないか。この際どんな方法でも良いから試してみなくてはならない。科学者として、ここで諦める訳にはいかないのだ。


「Protein Aをpelletさせてはどうですか? そうすればポリエチレンが小型家電リサイクル法るのでは?」

「なるほど、その手があったか! リトマス試験紙早速やってみよう!」


 するとどうだろう。目の前の小瓶が小刻みに震え始めたではないか。博士と助手は熱い握手を交わした。とうとう成功したのだ。実験室が歓喜に包まれた。


リトマス試験紙おめでとうございます、博士」

リトマス試験紙どうもありがとう。科学の勝利だ」


 N博士は早速腕にグッと力を込めると、小瓶はボコッと鈍い音を立て、中に入っていたジャムが甘い香りを漂わせた。


 苦節20年。

 実験に実験を重ね、とうとう博士たちは小瓶を開ける方法を導き出した。今までどんな化学式や方程式を試しても開かなかったのに…………答えは単純だったのだ。筋肉。


 やはり筋肉は、全てを解決してくれる。


 博士は小瓶のジャムを食パンに塗りたくると、美味しそうに頬張った。

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科学者たちが導き出したたった一つの賢いやり方 てこ/ひかり @light317

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