転校生は復讐者

つばきとよたろう

第1話 転校生は復讐者

 穏やかな朝のホームルームの時間、暗澹とした雰囲気の漂う教室の中で、転校生が紹介された。女の子にしては背丈が高く、体格ががっちりしている。柔道か何かやっているのだろうか。直感的に宮地みるは、想像した。この教室の女子の中で一番強そうだ。ひょっとしたら男子にも負けないかもしれない。自己紹介してと、担任に促された時、宮地は耳を疑った。北江益美です。柔道をやっています。あだ名は、マッスルと呼んで下さい。教室が爆笑の渦にのまれた。が、それも一瞬だった。北江という苗字に、宮地は底知れぬ恐怖を覚えた。北江という生徒はこの教室にもいた。偶然の一致とも思えない。北江ひなるは、このクラスでいじめられていた女の子だ。だがもうこの教室にはいない。校舎の屋上から飛び降りたのだ。いじめをしていた生徒も、黙って見ていた生徒も後味が悪かった。だが、自殺の原因が自分たちのいじめだったと思う生徒は少なかった。あいつが勝手に屋上から飛び降りたんだ。俺らには何の関係もない。北江ひなるの教科書や上履きを隠した生徒も、そう思っている。ただ傍観していた宮地も、死んだのは気の毒だが、自分が悪いとはこれっぽっちも思っていなかった。

「それでは北江の席は、その空いている所に座りなさい」

 一瞬、教室のみんなが凍り付いた。そこは死んだ北江ひなるの席だったからだ。宮地の隣の席でもある。北江益美は何の躊躇いもなく、どしどし歩いてその席に座った。宮地の方を見て、微笑した。

「よろしく」

 宮地は見とれていて、言葉を返すのが遅れた。

「ああ、よろしく」

 何それ? 宮地は寒気を感じた。北江益美が鞄から取り出したのは、ボールペンで書き殴ったようなボロボロのノートだった。そこには執念深い文字でこう記してあった。復讐帳。宮地は北江ひなるが、あの世から蘇ってきたように思えた。そうして自分たちに復讐しようとしているのだ。

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転校生は復讐者 つばきとよたろう @tubaki10

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