第5話 煉獄。

 ————そして、わたくしは現在に至るまで、トレーニングをしておりません。どうしても、やる気が起こらないのです。教会に来たのも今日が、久しぶりです。

 このような肉に背く愚かな考え、それでも筋なる肉はお赦しになりますよね————?


「……筋なる肉は、お赦しに、なるでしょう。筋なる肉は、寛大です。ですが、私が、赦しません」

「……!? し、司祭様!?」

「これは私、いや、この罪です。肉の意志を広めるだけの卑しい身でありながら、筋なる肉がお赦しになられた魂を尚、事ができないのですから。ですが、貴女を正しく導く為に僕も一緒に、罪を被りましょう」

「え? え? ええ!?」

「今日は胸の日です。たとえ小さな肉であっても大きくなればその影響は大、更に都合の善い事に明日は脚の日。大臀筋や大腿四頭筋などの大きな肉の働きにより貴女の肉体は活力を取り戻すでしょう。更に————」

 僕は小窓の網を掴み、握力で網目を潰し、それを、引き剥がした。

 ばきっ、と音が鳴る。

 ひきつった女性信者の顔が、あらわになった。

 僕は顔を突き出し捲し立てる。

「善いですか? 貴女が今こうしている間も会衆は鍛錬しているのです。なのに現在に至るまでトレーニングしていない? ここに来るのも久しぶり? 舐めとんかアンタ! 善いでしょう。僕が付き合いますよ。今貴女だけに相応しいトレーニングメソッドを思いつきました今日は胸の日なので先ずはインクラインバーベルベンチプレスを六から八レップスその後はインクラインダンベルプレスも同じ回数更にダンベルフライは二倍の回数で伸ばす縮める止まるを意識して行きましょう!」

「し、司祭様!?」

「僕は司祭じゃない助祭だ! そして話を逸らそうったってそうは行きません。続けてディップスもした後に最後はプルオーバー仕上げに僕が考案した体操もして頂きますああコレは他の方々と一緒にするのが宜しいでしょうでは早速始めましょうか先送りほど罪深き行いはありませんから!」

 僕は彼女との隔たりである壁をぶち壊し、彼女の腕を掴んで引きずる。なんてだらしない体つきだ。これは骨が鳴る。

「ちょっと! 痛い! しさ——いえ、助祭さまー!?」

 心が痛むが仕方のない事。彼女が筋肉幸せな状態に至る為なら僕は進んで煉獄の役割りを担おう。

 ふ、ふふ、ふふふふふふふふふ————。

 

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