第3話 罪悪感の少ないマドレーヌ。

「わたくし、罪を語るのは初めてで……ああ、これはもう言いましたね。正直言って、何から話せばいのか……」

「思い出せる範囲で構いませんよ。貴女が悔いているものごと、それが一番大切なのですから」

「ありがとうございます司祭様」

 僕は司祭ではないのだが、彼女がそう思うのなら、それで善いだろう。その方が語り易いのならば、僕の階級などは些末な事だ。

「わたくしが想う一番古い罪は、昨年のマッスルキタムラ祭を少し過ぎた時期のことです————」

 

 ————わたくしは街の菓子屋で「罪悪感なく食べられるマドレーヌ」なる物を目にしました。わたくしは嘘だと思いました。確かに糖質は筋なる肉と水を結ぶ、大切な栄養素です。ですが身に余る糖分は脂肪へと変わるし、そしてにも繋がります。筋なる肉を覆い隠してしまう、そんな糖質を過分に含む菓子を食べて罪悪感を感じないことがありましょうか。

 ですがわたくしは「コーヒーの余り殻を使用している」という売り文句に惹かれ、それを購入してしまいました。

 家に帰ると早速わたくしは、それを食べます。

 バターと砂糖のその深い甘みと、ブランデーとコーヒー豆が成すほのかな苦味がわたくしを夢中にさせました。「カフェインがあるから大丈夫」そんな言い訳を自分にしながら。実際、カフェインには脂肪を燃焼させる効果があるし、心肺機能や肉体のパフォーマンスを一時的に高めてくれるので、カフェインに罪はありません。罪深きはわたくしの心でございます。カフェインという言葉で甘い糖への誘惑を肯定してしまったのですから。

 ああ! なんと罪深いわたくし!

 筋なる肉は本当にこんなわたくしをお赦しになるのか————。


「——なるほど。しかし必要な糖分を摂取しなくてはいずれ、カタボリックに繋がります。取り過ぎた糖分は動いて消費すれば善いのです」

「ああ司祭様! 目から鱗が落ちる思いですわ! わたくしはなんてつまらないことを悩んでいたのでしょう!」

「罪は、それだけですか?」

「いいえ。まだあります。本当にわたくしは罪深い————」

 

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