2.藤麻 愛華

真っ白な天井。消毒液の匂い。

ああ、病院にいるんだったな。

右腕には、異物感がある。

点滴をしていたな。

「先輩、起きたんですね」

俺は、視線だけ動かす。

茶髪でボニーテール?あれ今言わなんだっけ?

まあ、いいや。とりあえず、その髪型の女性が点滴のある右側にいた。

彼女が、俺の職場の後輩 藤麻 愛華(ふじま まなか)である。

愛華くんは、新卒で入社して今が・・・6月だから2か月か。

元ソフトボール部ということで、小麦色の肌に引き締まったボディ。

一目見るとほっそりとしている。

「愛華くん・・・なぜ、俺を助けた?」

「あれ?先輩がそれ言っちゃうんですか?

うち、この二ヶ月で先輩に何度助けられたと思ってるんですか」

愛華くんは、営業先に行けば交通事故に遭い、火事に遭い、川に溺れる。

付いたあだ名は、疫病神。

さすがに、引いた。

女の子につけるあだ名じゃないと。

まあ、確かにそういうことが起こってはいるけど偶然だろう。

そして、その度に俺がそれに巻き込まれ助ける。

そこまでが一連。

「俺は、死にたかったんだ。

もう何も残ってない。こんな俺は生きてても仕方ない」

「何も残ってないなんて言わないでください」

「何もないさ。俺は、天涯孤独になったんだ。

親父もお袋もいない、娘たちにも二度と合わせてもらえない。

こんな俺に何が残ってるっていうんだ」

俺は、泣いていた。

こいつに、涙なんて見せるつもりはなかったが我慢すらできなかった。

愛華くんを見る。

なぜか彼女も泣いていた。なぜだ?

「先輩には優しさが残ってます」

「そんなものなんのやく「そんなことありません」」

俺の言葉を遮って、愛華くんが声を荒げる。

優しさ・・・優しいだけじゃ家族すら守れなかった。

それで、元嫁に愛想をつかされた。

仕事人間の俺なんて。

「先輩の優しさがあったから私はいます。

それに・・・私がいます」

「後輩がいるって・・・つくづくお前は仕事人間だという嫌味でいいか?」

「違います、違うんです・・・(先輩、離婚してるからもう不倫とかじゃないですもんね)・・・私、先輩の事が好きなんです」

途中小声で聞こえなかったが空耳かな?好きとか聞こえたんだけど。

ああ、ライクのことか。

「ライクか・・・はいはい、ありがとさん」

愛華くんがジト目になってる。

あれ?俺なんかミスった?

「ラブの好きです。私は、先輩が好きなんです。

好きになっちゃったんだから、先輩を救って何が悪いんですか?」

俺の頭は、真っ白になった。

こんな、一回りも年下の子に恋愛感情を持たれているなんて。

それも、出会って2か月で。

「あんなに事故に巻き込まれて、助けてくれる人にときめかない方がおかしいです。

というか、元奥さん見る目がなさすぎます」

彼女は、病室ということも忘れて声を荒げていた。

俺は、彼女が愛おしくなったがまだ思うように身体を起こすことも天井に視線を移した。

「先輩。とりあえず、課長には連絡入れてあるんでゆっくり休んでください。また来ます」

愛華くんは、頬を赤らめて病室を出ていた。

俺は、どうしたらいいのだろう。

何もないと思ったら、後輩がいた。

彼女の想いに俺は、答えられるだろうか。

わからない、わからない。

いまは、抗いにくい眠りに全てを任せよう。

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