第3章 南の国

第30話 船上で(1)

 プロローグからの続きに成ります。

 ラーファは船の中でも諦めていません、反撃のチャンスをうかがっています。

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 船から降ろされた、ロープに括りつけられた椅子に乗せられ小舟から船上に引き上げられた。世話係の二人の女を含めて、小舟に乗って来た海賊共はひょいひょいと舷側を登って来る。


 彼らは魔術が使えるのか、それとも魔女のようにシノビのスキルを持っているのだろう。おばばが使う軽身かるみに似ている。

 首輪が嵌っている間は体の外の魔力を感じる事も難しい、魔術かスキルかの判別さえできないつくづく此の首輪が恨めしい。


 馬車で移動していた時と同じように、船でも船尾に在る広めの部屋に二人の世話係と3人で生活する様だ。船に乗せられた最初の数日間は船旅に慣れなくて戸惑う事が多かった。ほとんどの時間を部屋の中で過ごし、朝晩の2回船尾を歩くだけの生活と分かって来た頃は、退屈に苛まれるようになっていた。

 オウミ国を離れる事になってもラーファは決してあきらめる積りは無い。護送されるラーファには何もする事が無い、逆に言えば考える事は幾らでも時間が取れた。


 この機会を利用してラーファは首輪に付いて其の影響の及ぶ範囲を特定しようと幾つか試してみた。先ず分かっている事は、この首輪は魔力の形を歪める事が分っている。ゆがみが及ぶ範囲はラーファの首を中心に体の表面に沿って魔力がゆがむ。

 ラーファが体内で魔力を組み合わせたり陣を描いたりする事は問題なかった。ただそれを外へと出しても歪められて魔術の行使が出来ない。


 探索系の魔力波を出しても歪められて意味をなさないデータに成る、ゆがみを計算に入れようとしても常にランダムに変化するゆがみに計算が出来ない。

 身体の中で完結する魔術は行使できる。回復魔術は体内で行使する分は申し分なく出来る。身体強化は体を強化する魔術では無く体に魔力を纏うものなので、表面を覆う事が出来無い。


 口や鼻の中まではゆがみは及んでこないので、声に魔力を乗せてみた。しかし、音の波に乗せて魔力を口から外へ出た時にやはりゆがんでしまう。魔力視も目で見る魔力がゆがんで意味をなさなくなる。耳で聞く音も、肌で感じる事さえ魔力が介在すればゆがんでしまう。


 一つだけ成功した物が在る。口の中に含んだ水に錬金術の分解を掛ける事が出来た。酸素と水素に分解出来たのだ。作れた酸素と水素は口から外へ出ても何のゆがみも生じなかった。魔力の行使された結果なら体外へと出せる事が分かった。

 これは、土槍を口の中で行使出来れば、単純な撃ちだしだけなら出来ると言う事だ。口の中で土槍ジャベリンは無理な大きさだけど、ストーンなら撃ちだせるだろう。


 他にも出来る事はあるだろう、例えば錬金で毒や酸などを作る事は出来る。口の中が傷付いたとしても回復魔術で回復できる。もっと早くこの事が分って居れば、逃げられたのにとラーファは悔しかった。

 船の中からでは、見張りの二人の女を睡眠薬で眠らせても逃げる事は難しい。マーヤが創ってくれたインベントリの腕輪は登録時に魔術行使が終わっているので問題なく使える。でもインベントリ内に身を隠すことが出来ても海の上からは逃げられない。


 勿論、ラーファには、脱出の希望は幾つか在る。一つはインベントリに置いてある幾つかの魔道具だ。もう一つは根本的な解決法、首輪の解除だ。期待できる首輪の解除方法は首輪を解析したマーヤの言葉だ。

 「開け! までは直ぐにわかったの、後の言葉が分からないの」


 ラーファはこの首輪が、ハイドワーフの作であることも前に聖樹の宝物庫で見た事も在る。それにハイドワーフの名前を思い出せなくても、会った事はあるはずだ。ドワーフの男は妻と娘を異常なほど大事にする。絶対、解呪の言葉の最後は女性の名前だ。

 イスラーファには何人かのドワーフの女性と親しくしていたようだ。一度死んだため記憶が朧でしか無いが、思い出せさえすれば、首輪を外す事が来出る。夜寝る前に同室の女二人に知られない様、ラーファは親しかったドワーフの女性の名前を思い出しては試している。

 「開け! マーナニア」、「ダメか次は・・・」


 言葉は周りに聞かれない様に小声で口の中だけで言っている。筆記用具と紙はインベントリの中にいれてあった。インベントリから物を出し入れするのは問題なく出来ている、行使した結果にはゆがみが関係無いからだろう。

 この紙にドワーフの女性の名を思いつく限り書いて、試している。名だけでなく愛称も試しているから、なかなかはかどらない。


 腕輪のインベントリの中には、マーヤが備え付けたお風呂とトイレが在るし、ラーファが入れた物も在る。大半が日持ちする食べ物や生活道具に着替えだが、ハンググライダーも入れて在る。他にも明かりの魔道具や飲み水を出す魔道具も在る、魔女の薬や金貨も用意している。金貨はオウミ国の物だ、前回で懲りたのでダキエ金貨は此処には置いて無い。

 腕輪の見かけは入れ墨のように肌に直接書き込まれている様に見える。だから取られる事は無いだろうが、機能を知られると警戒されそうだ。


 二人の世話係は必ず一人は部屋に残る様に動いている。今は二人に油断は無いが必ず船から逃げ出す機会は訪れる。今は、耐える時だと思っている。


 絶対にどこかの男の思惑通りにはさせないと、ラーファは改めて心に誓った。


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 チャンスは何時か必ず来ると信じるラーファです。

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