第29話 (閑話)混乱の王都

 悪の一大組織が自滅した、その穴埋めに女性の官僚が生まれた。

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 儂は貿易商人のイッスイ伯爵だ。ちょっとばかし法を潜っての奴隷貿易や秘密の競売を経営しているが、至ってまっとうな商人にして国家の重職に名を連ねる貴族でもある。麻薬に手を出したロクサス伯爵どものような腐った輩と同じにされたくは無い。


 商人は欲しい人へ売りたい人から仕入れた物を売る事で成り立っている。私は法や正義などの流通の邪魔をする障害を避け、欲望に忠実に物を動かし商売の基本を実行しているに過ぎない。私が居なければ人々の欲望は巷に溢れ出し、混乱を招くだろう。


 それなのに、ロクサスの奴は、儂の忠実な手下のニジン子爵の組織をことごとく潰して回っている。これはロクサスが私への攻撃を始めたのは間違いが無い。早めに対抗しなければ潰されてしまう。


 ステップ族へ攻撃の合図を出した。ニジン子爵へも出そうとしたが、行方がしれない。これはもしかして既に殺されたのかもしれない。ニジン子爵に頼らずとも、殺しは出来なくもない、その手の人材は常に飼っているのだ、ロクサスの派閥へ飼っていた暗殺者を送った。邪魔はさせない、邪魔する者は皆殺しだ。


 周りを信頼のおける者共で固め、家に籠って良い知らせを待つつもりだ。


***


 偽薬は面白いように下民共が釣れる。だがやり過ぎは恨みを買ったようだ。陛下が動き出したと聞いている、それに比べ麻薬は良い。貴族の子弟共は金は持っているし繰り返し物を買ってくれる。ただイッスイの競売に出る事が流行りに成ったのは残念としか言いようが無い。


 有能な者は好きだ、私自身有能であり有能な彼らを使いこなしている。私しかできない事だろう。それに比べイッスイの奴は物の売り買いに終始している。己の知恵を使って儲ける事をせずにバカの一つ覚えの如く同じ事を繰り返す能無しどもが。


 イッスイの奴がステップ族と仲が良い事を利用して彼らを引き込もうとしている。なんてバカなんだ騎馬民族など追いはぎ強盗の集団だと言う事が分かりもしないとはあきれ果てた能なしだ。奴らが力で来るのならこちらも力で対抗する必要がある。


 ニジン子爵がすり寄って来たが、ステップ族を怖がっている様だ。ニジン子爵の相手は庶民だ、戦闘集団を相手に対抗するような力は無い。こちらも商売の相手で繋がりがある神聖同盟から応援を呼ぼう。力には同じ力をだ。


 ニジン子爵が殺られた! イッスイの奴め、こちらの弱い所からつぶしに掛かって来たな。アッとゆう間に麻薬工房や武器庫などが潰された。神聖同盟から派遣された傭兵を動かす前に潰されてしまった。こうなれば手下を暗殺者としてイッスイ派に送り込むのみ。ニジンの持っていた者には劣るが戦闘力はある、徹底的にやれ!!


 私は王都の闇を牛耳るロクサス伯爵だ。


***


 「ヤバイ、一体だれが仕掛けて来たんだ?」

 分からん? イッスイもロクサスも一切の兆候など無かった。どちらも最初の動きは私を使っての相手の暗殺だと思っていた。逆にこちらが潰されて行く、暗殺者の養成所に始まり、誘拐用のねぐらや倉庫にしていた場所まで潰された。


 いったい誰が仕掛けて来た? ひょっとして王か? そうだ! 陛下だ。そうに違いない、これほど鮮やかに潰して行く手練れを抱えているのは陛下の影の組織しかいない。標的は? 最後に狙われるのは誰か? 俺だ! 俺しかいない!


 王は俺を殺して、全ての罪を俺にかぶせて他の奴らを、牛耳る積りなんだ。俺を見せしめにして!

 いやだ! いやだ! 殺されて、全てを潰され、家も血筋も全てが地に落とされるなんて考えるだけでも怖気にふるえてしまう。


 逃げるんだ! 隠れて! 逃げて! 追手から逃げてやる! 秘密の隠れ家へ急げ! 金になりそうな宝石だけ持って逃げるんだ! 隠れ家でやり過ごせ!


 「ニジン子爵、あなたはお終いです」女の声がした。

 振り返ろうとした。「散弾ショット」「アッ!!」


***


 私は栄え在る国務院の内務卿たるタイニードラムス侯爵である。我が家は建国前からの王家の分家として内政を陛下よりお預かりしてきた。陛下の信任厚き忠臣であった。


 いつから私は、いや我が家は間違えたのだろうか? 父の時代から? いや祖父の時代からかもしれない。内政を行う政治家たるわが侯爵家は、光も闇も合わせ持って内政を行って来た自負がある。なのにどこが間違えた地点なのか分からない。気が付けば闇に飲まれていた。


 王都を差支配する立場は綺麗毎だけでは済まない闇がある。だがその匙加減は心得てきたつもりだった。近年偽薬に始まり、麻薬が蔓延る様になった。奴隷の密貿易に奴隷の所有が公然の秘密となった。これらの犯罪者を支配し管理する官僚が、ここまで悪化する前に阻止するはずだった。


 それが、率先して悪事を成していたのだ。私の命令や指示は無視され、部下は彼らになびいた。どこにも味方は存在せず、お互いに殺し合っている。


 全ては我が侯爵家の不徳の致す所、一族、分家、使用人に至るまで毒を飲ませた。ここに生きているのは私タイニードラムス侯爵のみ。陛下、我が忠誠を命と共に捧げますぞ! オウミ国に栄光あれ!


***


 タイニードラムス侯爵家は一族全てがことごとく死亡、消滅する事に成った。


 イッスイ伯爵家は取り潰し、嘘判別魔道具で犯罪に加担した一族と使用人は死刑。分家も貴族の爵位の取り消しとなった。イッスイ伯爵は国家反逆罪にて死刑。


 ロクサス伯爵家は国家反逆罪で成人男性の分家を含む一族全てが処刑された。手先となっていた者は嘘判別魔道具による確認後ことごとく処刑された。


 ニジン子爵家の分家を含む一族と使用人全てが国家反逆罪に問われ、家は消滅、成人男性は処刑、子供と女性は国外放逐となった。一連の処罰の中で最も厳しい処罰だった。


 他にも麻薬や違法奴隷に関連して貴族の26家が取り潰し、嘘判別魔道具による確認にて判決後処刑されるもの多数、犯罪に関係しなかった事が確認された分家のみ新しく騎士爵として家を継ぐことを許された。


***


 オウミ国王はイスラーファの提言を受け、幾つかの勅書を出した。


 読み書き計算の出来る女性を下級官吏として雇用する事になる。オウミ国初の女性の公職従事者が生まれた。始めは下級官吏だけだったが、王妃や王女の周りの侍女も官吏として国の枠に入れる事と成り高級官吏への道が出来た。


 魔女学園の王都への進出が予定されていたが、王はこの魔女学園を大きく発展させ、王都に学習所を作り、其処で男性官吏科、女性官吏科、魔女科の3科を持つ事にした。これはのちにオウミ学園と名前を変え、男女共学の官吏科と騎士科に変更され魔女科は男も入れる魔法科と成り、更に大きくなって続いて行く事に成る。


 今回多くの貴族の家が取り潰され、職を失う者が王都に溢れた。これらの者と奴隷にされていた者を集め、保護すると同時に働く先をあっせんする事にした。


 そのため職業斡旋所を作り、男女を問わず仕事を紹介する事に成った。この職業斡旋所はその日暮らしの人や身元保証の無い人へも枠を広げ、最初の冒険者ギルドとなって行く。

 冒険者と名乗り始めたのは日々仕事を求めて職業斡旋所にたむろする者達で、不安定な生活を日々危険と対峙する冒険になぞらえて言い出した事に始まる。


 オウミ国発展の礎はこの頃作られた。やがて1000年続く大陸一の叡智が集まる国として栄えるが、神聖ロマナム帝国の侵略により徐々に衰退していった。

 小国となったオウミ国とビチェンパスト国とは1000年以上に渡る友好国として有名である。


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 次回からイスラーファのプロローグからの続きとなります。

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