第26話 王様とラーファ
悪の一大組織が自滅した、関わった貴族の大半が自殺するか、家名を失う事態となった。
――――――――――――――――――――――――
20日に
オウミ国王との会談は深夜に王宮で行われた。部屋で来るのを待って居たラーファの元へ3人がやって来て無言で椅子に座った。
出席はラーファ以外は、王様とガランディス伯爵と影の長ジョウガン子爵の4人だけだった。ガランディス伯爵は最初から赤い敵意の色を危機察知が感知していたが、王様も少し赤い。敵意が無いのはジョウガン子爵のみだ。彼は王様の後ろで静かに控えている。
「魔女殿、いささか今回の事態はやり過ぎでは無いかな?」
最初に口を開いたのは、王様。最初から問い詰めモードでお怒りの様だ。王様に何処でばれたんだろう?
「王様、私は今回の事態はいい気味だと思っても、やり過ぎだとは思いません」
気に障ったのか、怒りでガランディス伯爵がグワーッと口を開けて何か言う前に、言います。
「それに、ここに出席の
私の疑惑の指摘に、少しは敵対的な赤い色が薄れた。図星だったようです。
「彼らは王様から見れば必要悪に見えたのかもしれないですね」
「でも! 実態は違います! 彼らは麻薬を使い貴族の家の内側から腐らせていいように操っています」
麻薬の件は王様たちも知っているはず、厳しい顔はしていますが、驚きの表情はありません。
「王都では組織の拡大や商売のために、目を付けた人の家族を攫い、自分たちに都合の良いように脅して操っていたのです」
「そしてさらった人を暗殺者の訓練の的として使ったのです!」
「幼い子を、泣き叫ぶ幼子を、殺す訓練の的にしようとしたのですよ!」
さすがにこの情報は2人には衝撃的だったが、ジョウガン子爵だけは落ち着いたまなざしのままだ。王様とガランディス伯爵の顔は青ざめています。
「王様あなたの怠慢です」
ガランディス伯爵がいきり立ってラーファの前に迫って来た。
「何と言う暴言! 不敬だぞ!」
ジョウガン子爵はひっそりと王様の後ろに控えたままだ。
「確かに暴言でしたね、お詫びします王様」
椅子から立ち上がって、やや腰を落とした礼でお詫びします、でも顔は王様を見たままです。一応ガランディス伯爵もそれで引き下がってくれました。再び椅子に座ると続きを話します。
「今王都で起こっている事の全てが、身から出た錆だと私は思います」
「第2城壁内の貴族の30家が家ごと犯罪に何らかのかかわりがあり、又被害者でもありました」
「彼らの息子らは麻薬を吸い、犯罪者の主催する競売で奴隷となった娘を買っています」
「すでに腐っていたのです」
貴族家のいくつかは犯罪組織に屋敷を提供して、競売や倉庫や訓練施設などに成ってます。
「今、王都を管理する官僚が機能不全に陥ったのは、既に腐っていた部分が落ちて空洞になっただけです」
「遅かれ早かれ、今回の事態は起こったでしょう、私が介入しなくても彼らの内部抗争の激化で争乱と成っていても不思議では無い事態まで進んでいました」
「それを後押しする勢力もいましたしね」
そして今回、ラーファはお願いした事が在ります。その事を提案する前に、ラーファを巻き込んでこの事態を引き起こした点を、皮肉を込めて暴露します。
「ひょっとして、王様はそんな事態を望んでいたのかもしれませんね、彼らが自滅する事を」
「その切っ掛けに私が成る事を!」
初めてジョウガン子爵が反応した、ラーファの推測に驚いた様だ。今回の事態はラーファが切っ掛けですが、引き金を引いたのは王様です。王様には、是非ともラーファの提案を聞いてもらいたいものです。
「私からの提案が在ります」
「出仕しない者や自殺した者などで、足りない官僚の早急な補充に女性を用いて欲しいと提案します」
そう女性の登竜門への足掛かりにでも成ればと言う思いで提案した。滅びたダキエ国以外での女性蔑視を少しでも変えたかったのだ。
「今、必要な知識と経験を持った人材は男性の中にはほぼ枯渇していると思います」
「でも女性なら、夫や父の仕事を補佐し社交界でお互いの利害を調整する術を身に着けている女性」
「彼女らは読み書き計算の能力一つをとっても得難い力と成りえる人材です」
いきなり高官に抜擢しろなど言いませんが、下級官吏に登用してくれれば良いのです。
「この国は混乱を治めるために必要な人材を大量に必要としています」
「官吏だけではありません、貴族の家から解放された違法奴隷の人達、潰れた家の使用人も大勢、職を必要としています」
国の官吏だけでなく、王都に働き手を求める側と働きたい人を繋ぐ場所が必要です。
「攫われ、貶められ、奴隷として売られた被害者の女性の中には得難い知識や能力を持った人材がうもれていますわ」
「この人たちは生活を支える仕事を必要としています」
「是非この人たちに日雇いでも構わないので仕事を仲介する場所を王都に作って欲しいのです」
私の提案は王様が聞いてくれただけでも成果がありました。王様には思いつかない視点からの提案だと自負しています。
さてこれからは、内乱の危機がいかに切羽詰まった状態だったかの説明です。彼らが気が付いていなかったステップ族の事を知らせて恩を売る必要があります。女性官吏の登用のためにもしっかりと恩に着て貰いましょう。
「私は、今起こっている事態について切っ掛けを作った事は認めますが、事態がここまで進んだ事は先ほども言いました様に既に空洞化していたからとしか言いようが在りません」
「事態は成るべくして成ったのです」
ガランディス伯爵のお怒りが爆発しました。立ち上がってラーファの前まで来て指を突き付けます。
「お前は! 事を起して置きながら、事態が進んで収集が付かなくなると放り出すのか? おま・・!」
「あら、ガランディス伯爵は内乱をお望みでしたか?」
ギョッとしたガランディス伯爵の言葉が止まった。
「彼らは内部抗争にかこつけて、神聖同盟だけでなく、東のステップ族を引き込む手立てが進んでいましてよ」
この情報は3人には初めてだったようで、口を開けて呆然としたガランディス伯爵が黙り込んだ。王様は衝撃を飲み込むと子爵に問いただした。
「知ってたか?」
「いいえ、初めて聞きました。」
「まずいな! 東への防備はラニ川だけじゃ。」
不意を突かれた王様たちはどう対処すべきか考え込んでしまいました。
「イスラーファ様、先ほどのステップ族を引き込むとの情報はどのくらい正確な情報なのですか?」
初めて子爵がラーファに質問してきた。
「密貿易を管轄していた、イッスイ伯爵の派閥が他の派閥との抗争に備えて王都の幾つかの場所へ先兵となる100名程を招き入れています」
「他にも傭兵などを雇っていますけど、主力はステップ族ですね、彼らは隊商を組んでやってきますから王都に入りやすいのです」
「この100名は事を起す時、門を確保すると同時に船を対岸に用意してラニ川を渡る手筈を整えていました」
「なんじゃとう!」
王様が立ち上がって叫びました。初めて知ったのなら、この反応は仕方ないかもしれません。でも今更ですよね。
「ですから、先ほど怠慢だ! と言いましたわ」
再びの暴言に、さすがに今回はガランディス伯爵も言い返せないようです。西の神聖同盟への対応に目を奪われて、東の危機に気が付いていなかったのですから、怠慢以外の何物でもありません。
「イスラーファ様、その100名のステップ族は今どうなっていますか?」
さすが影の組織の長様、急所を押えていますね。
「もちろん、今回の事態の一つですから、今頃は王都中から逃げ出していますわ」
「それから彼らの用意した武器や船は、拠点にしていた倉庫に在ったので燃えちゃったようです」
ここ数日のあわただしい対応は内乱防止のためですから、少しは感謝して欲しいですね。
「それに彼ら騎馬民族は、移動が素早いですが、飛竜にはかないません、ラニ河の向こうに来ていた騎馬軍団は、何度か飛竜のブレスを浴びせると、逃げ出してしまいましたわ」
ジョウガン子爵はラーファに深々と頭を下げられました。
「イスラーファ様に感謝をいたします。」
ガランディス伯爵は茫然とそれを見ているだけです。王様も少しは冷静に成った様です。
ラーファは立ち上がって、部屋の壁際へ近寄った。神域から引っ張り出した、犯罪者組織が作った帳簿や記録などのコピー資料を部屋の片隅に積み上げて行った。
「王様もしばらくは忙しくなりますわね、私はル・ボネン国からお手並み拝見といたしますわ」
「では、しばしのお別れ、しばらくは王都の片隅でひっそりと暮らしますわ」
カーテシーで別れの挨拶をして、その場を去ります。夜が明ければル・ボネン国へ出発しなければなりません。後片付けは王様にお任せです。
王様とガランディス伯爵様は茫然と、ジョウガン子爵様はお辞儀で見送ってくれました。
この国には嘘判別の魔道具があるのですから、容疑者となった者への尋問なら犯罪の立証は早いでしょう。出来ればその穴埋めに女性官吏の登用が叶えば言う事はありません。
――――――――――――――――――――――――
次回、混乱の収拾は王様に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます