第25話 巨悪犯罪組織の壊滅
悪の一大組織が自滅した、その切っ掛けとなる事件が起こった。
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思わぬ事から犯罪組織の暗殺者養成所を潰したのは、ル・ボネン国へ行く8日前の13日だった。ル・ボネン国へ行くのは23日だが、国境の町ウラスボまで移動するのに2日かかる。だから出発は21日になる。
発端は、第2城壁内の貴族の敷地内にある施設だった。
人探しのため使い魔の笑い猫を召喚して、暗殺者養成所を探らせていた。この暗殺者らの中には魔力感知のスキル使いが何人か居るので、他の使い魔では見つかってしまうのだ。
7番と呼ばれる男の教官が訓練生の調練をしていたが、的として一人の女の子を連れて来た。実はラーファはこの女の子を探していた。下町流中堀町にあるパン屋の子が攫われたと広場で公開治療していた時噂で聞いたのだ。歳が8才で女の子と聞いて、マーヤを思い浮かべたのは仕方ないだろう。
組織犯罪に雇われた傭兵の武器倉庫などを探らせていた使い魔を、王都にある誘拐の組織が使っている拠点へやって、女の子を探したのだがいなかった。そこで同じニジン子爵の組織である暗殺者養成所を調べる事にしたのだ。
7番がこの子を的にするため連れて来たのは、気分が悪くなるが、訓練生に生きた人間、更に幼い子供を殺す事が出来るのか試そうと言う訳だ。泣き叫ぶ幼女を引きずって、杭に縛り付けた縄を伸ばし、数歩動けるぐらいで女の子の胴も荒縄で縛り付けた。
ラーファは、笑い猫を何時でも助けられるように、女の子の後ろに移動させた。縛られて杭から数歩しか離れられない女の子はよろよろと泣きながら地面に座り込んでしまった。
「エッ、エッ」と声も枯れたようで長い事泣いていたのだろう。
訓練生は5人、どいつもこの事態に慣れているのか顔色一つ変えない。7番が訓練生にこれから行う事を言う。
「お前たちは、的への指示通りの攻撃をして貰う。」
「訓練生1号から4号は手足の筋を切れ! 相手は縛られているが数歩なら動ける、的は小さいが確実に素早く行うように、訓練生5号、お前は的を殺せ!」
「分かれば合図とともに1号から始めよ。」
訓練生らは薄刃のナイフを構えた、切れ味を鋭くするために刃を薄くしてある様だ。
「行け!」
考えて行動するような時間は無かった、笑い猫に荒縄を切って女の子を
笑い猫にはラーファの魔術付与で幾つかの魔術が使えるが、使う時は顔を出す必要がある。使い魔なので見えないが、魔力感知持ちが居れば見つかってしまう。
女の子は自分に向かって刃物を構えた男が迫って来るのに恐怖で動けない。笑い猫は女の子を
『
訓練生1号が女の子に迫って来た。身体強化で速さを強化しているのか早い。狙いは左の上腕筋なのか左腕の内側へとその刃先を動かす。肘から先を動かない様にする積りだ。
風の刃が狙い通りに荒縄を切ると、前のめりに倒れる女の子。狙いが狂って体制を崩す訓練生1号。
倒れる女の子に覆いかぶさるように、笑い猫の
的の女の子が消え、ナイフを空振りした訓練生1号がバランスを崩しこけた。見ていた他の訓練生らも唖然として動けない。
そんな中、突然的の女の子が消えた事を知り、杭に駆け寄った7番は、すぐさま訓練生に命じた。
「杭の周りを取り囲め! 急げ!」
教官の7番は笑い猫の存在を魔力を感じる能力で知った様だ。子供が消えた事からある程度状況を推測したのだろう。
教官の命令で急いで杭の周りを囲んだ訓練生ら。それを確認して大きな声で言い出した。
「魔女よ聞け! お前の仕業だと直ぐ分かったぞ、使い魔が現れたのが俺には直ぐ分かった。」
「良いことを教えてやる、何故俺が魔女の仕業だと分かったのか。」
そう言うと訓練生らへ向かって言った。
「お前らもよく覚えて置け、魔女は
「使い魔は俺が始末する、魔剣だ! これなら使い魔を切れる。」
魔鉄が刃先に入った剣を鞘からするりと抜くと、右手で下段に構えた。そして杭の方を向くと笑いながら、でも目だけは冷たく動かさず話す。
「
「そして俺にはカカリ村の魔女を殺す様に指令が出ている、せっかく隠れていたのに子供を助けようとして見つかるとは、残念だったな。」
最後の言葉はラーファへ向けてのお前を知ってるぞと言う宣言だろう。
「魔女が居る、1号お前は応援を呼んで来い、魔女はこの杭からそんなに離れていないだろう、待ってれば魔力切れで姿を現す。」
「はっ!」
誘拐された子供を救ったら、逃げれば良いと思っていたが、こんなに早く正体がバレルとは思ってもいなかった。大きな問題となる前に施設毎潰すしか無い。ラーファの仕業と知った彼ら以外にも、7番と同じ考えをする者が出るかもしれない。子供を助けた以上、彼らだけを倒しても怪しまれるだけだ。
『
笑い猫の魔力は多い、
7番も訓練生5人もいきなり27発もの
笑い猫にラーファの所まで女の子を
笑い猫が来る迄に治療所を畳む。まだ昼5時(午前10時)だけど緊急事態だ。まだ呼び込みさえしていなかったのでそのまま広場を出てパン屋が在る路地まで移動する。誘拐されたパン屋へ行くのだ。
そのパン屋は店を閉めていた。店の奥で人の動く気配がするので人はいるのだろう。店の側の路地でしばらく待つ。使い魔の笑い猫が一直線に第2城壁内から帰って来た。
「ネコちゃん、可愛いね、抱っこするね」
誘拐された女の子だ。声の調子からすると落ち着いている。使い魔を感知している様だが、魔女の才能が有るのかもしれない。
「家に帰ったよ、もう大丈夫」
路地に女の子を降ろすと、怯えた顔をしていたが、其処が見慣れた家の側の路地だと分かると急いで駆けだした。店の裏口へ行くのだろう。しばらくすると。
「ママーッ」と大きな声で言う声が聞こえた。ガタガタガタと騒々しい音が聞こえた後声にならない声がした。
「・・・あああっリリー、リリー・・・」
無事帰れた様だ。家の中には他に人がいない様なので親子二人なのかもしれない。だがこれで彼女達が安全になった訳では無い。逃げたと知ったら報復があるだろう。その前に彼らをそれどころではない様に引っ搔き回してやる。
どんな物体で在れ、固有振動と言う者はある、それが硬ければ粉砕する事は簡単な事だ。ドアぐらいだと構造材を錬金術の攪拌を修正した波の周期の同調を使って振動させ粉砕する。捕まっている人がいれば拘束具へ同じ事をしたのだけど、今回は居なかった。
建物全体へは土魔術の
『
笑い猫の
しばらくは笑い猫の使い魔で様子を伺っていた。幸いカカリ村の魔女と言う名は出てこなかったが、暗殺者と誘拐の組織のボス、ニジン子爵は、自分の暗躍がばれたと思って行方をくらました。王都の下町流東堀町にある秘密の屋敷に潜んでいた。
最後の仕上げとして『
決して人殺しを肯定する訳では無いが、これも犯罪組織との闘いの一環だと割り切った。
リストに載っている者は全て倒した。くたくたに疲れて神域へ帰った。マーヤと同じ年の女の子を助けられて本当に良かったと思う。
次の日になっても騒動が収まらない、それどころかひどくなっている様だ。公開治療を行いたいが、騒動が収まりをみせない。
ラーファによって幽閉されていた場所から逃げ出した誘拐された人が家に戻り、犯人らを役所へ訴えた。組織を失い人ごみに紛れようとして役人や民衆に見つかっては追われ、正体を暴かれては逃走する事を繰り返す様に成って来た。
取り締まる役人も半数は組織の構成員で、薄々内情を知っていたのか取り締まりには及び腰でいたため、庶民の間に動揺が広がり、役人へも不振の目が向けられるようになって行った。
ニジン子爵の派閥が壊滅した事で、残りの2つの派閥が衝突を始めた。
このまま放置しておくと内乱に成りかねない。仕方が無いので、彼らの拠点や麻薬工房など主要な施設と、内乱の予防にと彼らが武器などを保管している倉庫を潰した。
麻薬工房を潰す時、近くの貴族の家に監視するように何人か潜んでいた。影の組織だと思う。王様も麻薬の調査をしている様だ。
不思議な事に王国の影の組織の目が神聖同盟と手を組んだロクサス伯爵には居るのに、イッスイ伯爵側のステップ族には居ない。ひょっとしてステップ族の動きを知らないのだろうか? 影の組織は麻薬と神聖同盟から送り込まれた傭兵の周辺にしかいない。
ラニ河へ東から近寄っていたステップ族の騎馬軍団へは、ワイバーンに乗ってブレスを浴びせると逃げ出した。
何とか内乱だけは防いだが、事態は更に進んで行ってラーファには手が付けられなくなった。国務院の王都管理部門の官僚らが自滅したのだ。敵対派閥同士お互いに殺し合ったり、家族諸共自殺したり、出仕を拒んで引きこもったりと機能不全になっていた。
騒動は酷くなるばかりで収集が付かないと見たラーファは、組織を見張る事を止めた。そして公開治療を再開した。6月13日から6日たった19日だ。
いつものように広場に看板を出して、椅子を並べ呼び込みを始めた。ラーファにとって何時もの日々が戻ってきた。
と思った。
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今回のラーファはやり過ぎだと思いますが、誘拐された女の子をマーヤだったらと過剰に反応した結果でした。王様らへの丸投げはラーファが切っ掛けなのに責任感が全然ありませんね。
今回のラーファは切れると怖い、魔術師最強の一辺を見る思いです。
次回、王様との会談です。
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