第27話 ルボネ王宮前広場
ル・ボネン国へ行きます。
――――――――――――――――――――――――
王都を離れる日、ラーファは飛行服を着てイガジャ侯爵の下屋敷から馬車に乗り込んだ。
21日昼2時(午前7時)にガランディス伯爵の指示で、迎えに来た衛兵の護衛する馬車で王宮へ向かった。見送りに下屋敷の人達が数人手を振ってくれた。
王様への別れの挨拶は無い。昨日の夜に別れを告げたし、王様もラーファが直ぐに王都へ帰ってくることは知っている。それにラーファはカカリ村に居る事になっているから。知らないのはル・ボネン国と神聖同盟の国々などだろう。
アントニー竜騎士が騎乗する飛竜のトドに乗せて貰う。最初の飛行は中継地点になるカカリ村へ行く。
カカリ村の魔女の飛行場で待っててくれたのは、マーヤとカークレイ様。休憩と食事などで4コル(1時間)取る間に、ル・ボネン国へ行ってからの計画を話し合う。
マーヤには朝話したが、カークレイ様へは詳しくは話してなかった。基本はル・ボネン国の出方次第だが、10日以内にオウミ国へ密かに帰国する予定だ。
食事を摂りながら慌ただしく打ち合わせる。アントニーがティーの用意が出来たと知らせて来たので、二人に別れを告げる。
ティーへと飛竜を乗り換え、西の大公クララフ様の領都ガトヴォツェ要塞都市へ。途中イルク山を遠くに見ながら西へと飛行する。
要塞内に作られた飛行場に夜1時(午後6時)に無事着陸。ここではイガジャ領の魔女としてふるまう。竜騎士用の食堂で夕食を食べ、竜騎士が確保している宿舎の蒸し風呂に入れば、後は寝るだけ。この宿舎はアリスにミンとポリィーが利用している女性用宿舎で居心地は良い。
翌朝朝食をアントニーと食べながら今日の飛行を打ち合わせる。
「アントはここを何時頃出るの?」
竜騎士見習いの時からアントニーは父親の領兵隊長が教えたのかラーファが指導しない軍事訓練などは良い成績だったが、ラーファの指導する飛行訓練では、計算が苦手で目的地に時間通りに着けた試しが無かった。
どの飛竜とも直ぐに仲良くなれる特技を持って、飛竜に目的地を告げて飛竜任せで飛ぶ裏技で、目標までの最短時間を競う試験では、飛びぬけて成績が良かった。
今日はガトヴォツェ要塞都市からウラスボの町へ、飛竜のティーで飛ぶだけなので時間的に余裕があると思い聞いて見た。
「ラーファ教官、早く飛んで早く向こうに着きましょう。」
「ウラスボの町は北の大公軍が千名ほど駐留していますが、ラーファ教官は彼らに会いたくないでしょう?」
『ゲゲゲッ』です。ベロシニア子爵が出張ってきている訳では無いでしょうけど、側に近寄りたくないのはアントの言う通りです。
「早く着いたら、見つかるんじゃない?」
「いいえ、彼らは町の外に在る砦の守備隊として其処に居ますから、見回りの者に見つからなければ大丈夫です。」
「私だけで到着の挨拶をして、帰りに町で宿を取りますからラーファ教官はそこでお休み下さい。」
「アントはどうするの?」
「私はテントを張ってティーと寝ます、ティーと私の食事は砦の者が配達する手はずになっています。」
「分かったわ、それじゃ直ぐに出るのね?」
「はい、昼2時(午前7時)に出ますので、お願いします。」
北の大公は今回の戦争では予備兵力として軍を出していないと聞いていましたが、国境警備に出していたとは知りませんでした。
食事を終えると出発まで3コル(45分)しかありません。急いで仕度をします。
ウラスボの町は王都ウルーシュより北に200ワーク(300㎞)ほど近いので6月と言えど上空は冷えます。ここは闇の森ダンジョンと黒の森ダンジョンの間に在る平原に、とり残されたようにある城壁に囲まれた小さな町です。
ここには傭兵ギルドが在り、2つの森ダンジョンからの魔物を狩る傭兵が多い上に国境の町ですから商人の行き来が在り活気の在る町です。
昼9時(午後2時)前に町の側に広がる野原に着陸。アントニーが持って来た
ティーをテントに入れ、アントニーは駐留軍の砦へ報告に向かうため町の反対側、ル・ボネン国と国境にある砦へ歩いて行きました。
ラーファが北の大公と争った事があるので、わざわざ町を挟んで砦の反対側へ着陸してくれたのでしょう。1刻(2時間)ぐらいで帰って来ました。
アントが砦からの帰りに町へ寄って、宿を確保してくれたので明日の出発予定だけ打ち合わせて、ラーファはウラスボの町へ移動した。
町の中は戦火を避けて早々と降伏したと聞いているので、建物もそのまま残っていて、国境の町独特の商人や傭兵が闊歩する景気の良さが在った。
宿は、この町一番の高級宿を取ってくれていて食事もおいしく、特に地元のベリーが入った黒パンが美味しかった。
朝は昨日食べたチーズを使ったポリッジがお代わりするほどおいしかった。朝食後、直ぐに宿を出てテントに向かう、飛竜のティーとのんびり食事をしているアントと合流、食後は一緒にテントを畳んだ。ティーも元気そうなので、ル・ボネン国へ到着予定の昼5時(午前10時)に合わせて1刻(2時間)前に飛行を再開した。
予定通り、王宮前広場へ昼5時(午前10時)前に上空に着く。
6月23日昼5時(午前10時)時間通りに、ル・ボネン国の王都ルボネのルボネ王宮前広場へ着陸。アントニーと飛竜のティーはラーファを降ろすと、直ぐ上昇し帰途に就いた。
ルボネ王宮前広場には王都の群衆が詰めかけていて、飛竜の降りる瞬間は静まり返っていたが。再び飛び立つとため息の様なほっとした安心感の様などよめきが起きた。
群衆のどよめきの中頃合いを見計らって居たのだろう、見知った顔のサジタリス様がラーファを迎えに現れた。
「ようこそ、ダキエの姫、ル・ボネン国は陛下を始めとして臣民こぞってダキエの姫様を歓迎します。」
恭しく礼をするので、答礼としてラーファもカーテシーで礼をしました。
その後「お手を。」と手を取られて、一段と高い場所へ導かれて移動します。その先には周りを花や旗、近衛兵などに囲まれて一人の中年の小太りな男が髭を触りながら待って居ます。恐らくこの国の王アルセウス様でしょう。
左右から楽団が演奏を始めます、
なんだか、雰囲気が嫁入りか結婚式の様な気がする。
壇上への階段をゆっくりと上がり、壇上に待つ王様の元へと連れていかれ、手渡される。
これって結婚式をイメージした演出よね。私の手を取ったアルセウス王は飛行服の手袋を見て、さっと外して手の甲にキスをした。
”ギャー”と叫ばなかった事が不思議だけど、顔は引きつっていたと思う。
何とか平静を心がけて、王様に挨拶をと深くカーテシーして、言上申し上げる。
「初めてお目にかかりますアルセウス陛下、名乗る名を失くしました一人の魔女でございます」
「陛下が私を受け入れて下さいました事、誠にありがたく感謝申し上げます」
王様も礼を返して、握ったままの手を引き、ラーファを立ち上がらせると答える。
「ダキエの姫殿、このアルセウス・セルボネ・ネーコネン・ボネン、あなたが末永くこの国に住まわれる事を願い、歓迎します。」
『ダキエの姫呼ばわりが定着していて、魔女がどこかへ行ってしまってます』
そうっとつぶやくが王様には聞こえていないでしょう。やっと手を放してくれたと思ったら、エスコートで奥の宮殿まで案内してくれるようです。
仕方ありません、彼の腕に手を添え、導かれるまま宮殿へと入ります。ここまで式典を結婚式風にされると、演出を誰がしたのか興味が湧いてくるほどです。
でも忘れてはいません、この国にはエルゲネス国から来た闇魔術師らが居る事を。
そしてダキエの首輪もある事を。
――――――――――――――――――――――――
次回は、歓迎式典の前です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます