第18話 魔女の名は騒動の元(3)
薬師ギルドの評議員が何やら仕掛けて来るようです。
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使い魔が中継して、評議員らの話を聞きました。女だと言うだけでここまで
そこら辺も
次の日、朝からマーヤが何やら伝えたい事が在ると言って来た。
「伝えたい事ってなぁに?」
「マーヤはラーファがビチェンパストへ行っても、ここに居て魔女学園を卒業したいの」
おやまぁ、マーヤが悩んでいると思ったらそんな事だったのね。ラーファとしてはまだまだ子離れしたくありませんが、マーヤは親離れしそうですね。
「船に乗る前に、8月でお別れするって決めなかった?」
「うん、最初はそのつもりだったの、でももっともっと ここで色んな事をみんなと一緒にしたくなったの」
「マーヤは知識はいっぱい持ってるわ、でも大魔女のおばば様に言われて分かったの、経験がもっと必要なの」
おばばからも聞いていますが、この頃マーヤを探る動きが在るそうです。闇魔術師の手先が使い魔を送って来たらしく。追いかけたけど逃げられたそうです。
カカリ村はラーファも思いましたが、守りが何重にも厚く有ってマーヤを育てるのに最適だと思っています。
「マーヤの言葉からはカカリ村が大好きな事や、住んでる人が大切な事も良くわかるわ」
「でも、考えてみて、マーヤはエルフなの、妖精王とエルフの女王の血を引くハイエルフの家系なのよ」
「エルフの寿命は自分でも長いと思うくらい長いわ」
マーヤがまだ味わう事が無い、樹人と人族との寿命の差。必ず来る一方的な別れ、親しくなった人と別れるそれも寿命によって死別するのだ。見送るのは何時もラーファ、強い絆で結ばれていても別れは直ぐにやって来るのだ。
樹人同士でしか夫婦や親子の関係が築けないのは、樹人の定めなのだろう。
「そして子供を育てる事はその長い人生の中で最も長く関わる出来事なの」
「ラーファは
「その全てをマーヤと共に過ごそうと、あなたが生まれた日決めたの」
あの洞窟での出来事はラーファの中で思い出すたび、心が苦しくなる。マーヤを産み落とした時の喜びと、自分が死ぬかもしれないと分かった時の絶望、その絶望は自分の死では無く生まれたばかりの子が長く生きられない事を知った絶望だ。
彼の方に命を分けて貰い、生きかえった時ラーファはマーヤを全力で育てると決心したのだ。
「今でも神域で会えるからこそ、こうして王都とカカリ村に離れていても共に過ごせているの」
「でも船の上は違う、神域を開く事が出来なくなるのよ、マーヤに会えなくなるわ」
ラーファの気持ちはマーヤに伝えた。マーヤには重荷かも知れないが、子離れできない母親のわがままだと思って欲しい。
「この気持ちが今のラーファの全てよ、マーヤはラーファの気持ちを知った上でカカリ村に残るのか決めてほしいの」
「ひ、ひどいわ、ラーファはマーヤに側から離れるなって言いたいのね」
「いいえ、そうじゃ無いわ、マーヤが今体験している事はこれから何度も起こる事なの」
マーヤが親離れをゆっくりと始めているのが分かるからこそ、マーヤの自立心を育てていきたい。
「その最初だと言う事ね」
「だからたくさん悩んでほしいの、ラーファはマーヤが決めた事ならどんなことでも全て応援するわ」
マーヤは彼の方の知識を引き継いでいる、知識ばかりあって経験が足りないと自覚していても知識に引きずられて自分の心からの欲求を否定する事が多い。樹人だって本能による感情は理性を吹き飛ばす事が多いのだ、特に2万歳以下の若い樹人には。
「わかった、しばらく考えてみる」
マーヤが自分の部屋へトボトボと帰って行く。落ち込んだマーヤも可愛いわ。
ラーファの記憶に在る妖精族の子育ては、
エルフの子育ては家族毎に育てるのは聖樹の中のエルフだけで、外で暮らすエルフはエルフの学校を作って集団で育てていた。
ドワーフ族はもっと過激だが短い。50年間、子供は男女別にドワーフ族以外の目に入らない様に聖樹内に在る工房大学の専用エリアで育てる。50年を過ぎれば若者の仲間として結婚も出来るようになるが、成人はエルフや妖精族と同じ千歳としている。
マーヤはまだ7歳になったばかりだ、人族でも7才は幼いのにましてやマーヤは万を生きるエルフだ。千年先の成人まで7才など誤差の内になってしまう。確かに母の手から種族事の子育ての場に移動する時期だけど、ここはダキエではない。
そのため人族の中へと積極的に出て行く、マーヤも様々な体験を求めている。
ラーファはマーヤに経験と体験を沢山してほしいと思う。
さてラーファも今日は新しい体験をする事に成りそうだ。どんな
待って居た
朝から5人ほど診断と治療を行い、観客も大勢集まって来ている。ラーファにも
「やいやいやい、 偽魔女さんよう おめぇ偽のポーション売ってんだってなぁ!」
先手の切り込みは、細面の男。周囲の群衆が勢いと大声に押されて、男から遠ざかる。
「何言ってだよ! おまえさんいちゃもん付けようってんだね!」
「お前さんが言う偽ポーション、わたしゃ売ってなんかいないんだからね!」
受けは、こんな感じで良いかな?
「よう! 偽魔女、ネタは上がってんだぜ! これを見ろよ!」
と後ろから現れた大柄な髭男が粉薬の様な物を見せます。早くも本命が現れたようです。
「ふん! 話にもならないね! わたしが売ってるのは此れだよ!」
魔女の薬を掴んで
「それにね! これは売り物じゃないんだ! 治療で使うためのものなんだよ!」
「とんだ言いがかりだね! 後ろの町役場に恐れながらと駆け込もうか?」
逆に言いくるめられ、役場に知らせると脅された、
「てめえごちゃちゃと、うるせえんだよ!」
魔女のマントの襟もとを掴んで引き寄せた。ボスらしいのは力が強く喧嘩も強そうです。ラーファへも暴力で脅せば、逆らえないと思っているようです。
この手の脳みそ筋肉男には、少し痛い目に遭って貰いましょう。ボスが掴む手にラーファの手のひらを当てた。
「お前さんがこの
言った後、治癒魔術を行使します。
「治癒魔術・
治癒の魔術の中で体を動かしている糖分を適度に抜く。抜いた糖分は手のひらから下へと白い粉になって落ちて行きます。
抜いたと言っても殺すつもりは無いので、血中濃度を半分にしたぐらい、これぐらいでも脳内への糖分の欠乏でひどい事に成るだろうけど。軽い低血糖で急にへたり込んだボスを見た先手と本命の男らが怯えた様に後ずさりします。
「な、何を! しやがった!」
ボスがへたり込んだまま声を出しますが、力の無いかすれ声に成っています。
「お前さん元気が在り過ぎなようだから、元気を少し減らしてやったんだよ」
「偽ポーションだ! と難癖付けるなら相手を見てしな! こちとらカカリ村の魔女だよ!」
ボスがへたり込んで動けない事を確認して、子分共を睨みつける。
「後ろの二人もボスみたいになりたくないなら、こいつを連れてとっととお帰り!」
「ひえぇー」、「本物の魔女だ! やべーぞ!」
先手の男が叫びながら、しゃがみこんだボスを引っ張って、本命男が腰を押して逃げ出した。
このような次第で
護衛かと思ってた男らは、この事態でも動かない。やっぱり見張りなんだろう。
さて評議員には、少し痛い目を見てもらうのが良いかもね。
売られた喧嘩だ! 買うのも嫌いじゃないよ!
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ラーファの心の中で敵認定が出たようです。
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