第11話 ル・ボネン国から来る(4)

 使節団の歓迎会でのラーファです。

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 歓迎会は正餐の席から始まる。各々の席順は最奥の4人掛けのテーブルに席が2つ、細長いロの字にテーブルが作られている。


 最奥の二人は左が歓迎会の主催者、イガジャ男爵様、右が使節団団長のサジタリス様。以下、左側はイガジャ家が座り、右には使節団が座る。


 ラーファの席は無い。ラーファは正餐の後の歓談の席で紹介される予定です。


 では、それまでの間何をしているのかと言うと。


 昼6時(午前11時)から延々と蒸し風呂、水浴を繰り返した後。軽い昼食(ジャガイモのパンケーキとワイン)と2コル(30分)の休憩を取り、今度は浴槽へ行き軽く洗われた。その後昨日と同じベッドでのマッサージ。香油を塗られ、別の意味で火照った肌にやっと下着をつける事が許された。


 次は、椅子に座らされて、髪のセット。昨日衣装合わせした、スモックとスクマーンを着る事が出来たのは正餐が終わった頃でした。


 カークレイ様の奥様、ボーデン様が迎えに来て下さいました。ボーデン奥様に付き添われて歓談が始まった会場へ向かいます。


 今日のボーデン奥様は白いスモックに落ち着いた濃い目の赤い糸で刺繍したものをお召です。上から着るスクマーンも大小の色とりどりの花が描かれたなかなか見事な作りです。


 会場の入り口でカークレイ様に迎え入れられて会場へ入ります。今日のカークレイ様は黒一色に見える、透かし模様のレースの生地を使った上着が目を引きます。夫婦お揃いの色を使って二人が並ぶととても映えます。


 入り口で一度軽くカーテシーをして中へ入ります。


 女性が男性の付き添い無しに公式の会場へ入れるのは子供も成人した40台を過ぎてからと言うしきたりは、ダキエの個人主義と違って女性の行動を縛る嫌なしきたりだと思っています。でも、此処はオウミ国、郷に入れば郷に従えは円満なお付き合いには必要な事だと割り切っています。


 それに、ル・ボネン国はオウミ国より更に女性を男性の従属下に置く男尊女卑なお国柄だと聞いています。


 カークレイ様とボーデン奥様を両脇に従えて、使節団団長のサジタリス様の元へ向かいます。


 ル・ボネン国の方々は大陸の西側に住む人が好むぴっちりと体の線が分かるタイツとトーガと呼ぶ上着に肩から下げた腰下までのマントを羽織られていて。服に金で縁取りした模様が眩しいほどにキラキラしています。


 サジタリス様の前まで進むとラーファから挨拶します。


 サジタリス様はラーファが近づいて来て、男性の紹介も無くいきなり話し始めたので驚いています。


 立ち居振る舞いは、ダキエ仕込みでル・ボネン国の人には横暴に映るかもしれませんが、ラーファとしてはこれ以上妥協できない一線なのです。普通目上の方から話しかけるのがしきたりです、女性の場合は付き添いが女性を紹介してから話始めます。


 「サジタリス様には、初めてお目にかかります、イスラーファと申します」


 彼の気持ちは女性から話しかけられて不愉快そうです。が、ラーファが名を告げると、態度が一変しました。


 「おお、あなたがダキエ国の次期女王と呼び声も高かった、イスラーファ皇女殿下でしたか、お国の事は残念至極でしたが、お元気の御様子安堵いたしております。」


 「申し訳ございません、その名はダキエの滅亡と共に捨てました」

 「先ほどは敢て昔の名を名乗りました、あなた様に私を知って頂くには昔の名を名乗るしか方法がございませんでした、御理解いただければと思います」


 少しは会話の主導権を握れたと思います。次は魔女と呼んでもらえば今日は成功です。


 「今は名も無き魔女として過ごしております」

 「さようでございますか、では、何とお呼びすればよろしいのですか?」


 さすが私が捨てたと言ってるのに名前を呼ぶ事は差しさわりが在るので聞いてくる。これも狙ってやっている事ですけど、後は魔女と呼ぶように誘導しましょう。。


 「そうですね、名を捨てた女でも、魔女でも、あなた様のお好きな呼び方で良いかと思います」

 「そんな、何処の誰だか分からないお名前ではお呼びできません。」

 「こまりましたな、・・・ そうだ! ダキエの姫とお呼びしましょう。」 

 「・・・ お好きにと言いました以上その名でもかまいません」


 常識破りの一手で主導権を握るつもりが、呼び名一つで主導権を取られてしまった。痩せたさえない初老の人だと思っていたら、ラーファを簡単に手玉に取る老獪なお人でした。


 とんだ食わせ物だったサジタリス様が笑顔で身を乗り出す様に一歩近づいてきます。


 「所で、ダキエの姫は神聖同盟へオウミ国を出るとご返答なされておられたが、いかがされるので?」


 彼の圧に一歩下がり、ダキエの姫呼ばわりに気分も落ち込んでしまいます。


 「いやはや、サジタリス様は気がせいておられるのかな? イスラーファ様は嘘は言わないお方。」


 「オウミ国を出ると言われたからには出て行かれるお気持ちに変わりは無い。」


 「オウミ国の一臣民の私でも、お引止めしたいと思っておっても、ご決心は固くとても残念に思っておるのです。」


 カークレイ様が気押されてタジタジとなっているラーファに代わって、サジタリス様の相手をしてくれた。彼の援護が在る内に体制を立て直します。


 「サジタリス様、ラーファはル・ボネン国へ行きたいと思っています」


 「思えば、海を渡り最初に訪れた国がル・ボネン国でした」


 「傭兵に追われ、逃げ出したため、ろくな挨拶も出来ずに去る事と成り、気がとがめておりました」


 「再び、ル・ボネン国を訪れ前回は出来なかったご挨拶を今度こそしたいと存じます、サジタリス様ラーファの気持ちを汲んでいただけますか?」


 「おお、さようでございましたか、歓迎いたしますぞ。」


 「ダキエの姫様におかれましては、ル・ボネン国上げて歓迎する所存。」


 「はい、宜しくお願いします」


 「では、私は此れで失礼させていただきます」


 一礼して、再びカークレイ様とボーデン奥様に付き添われ出口へとゆっくりと歩いていきます。


 出口から出てしばらく言った所で、カークレイ様にお礼を言います。


 「先ほどは助けていただいて、ありがとうございます」


 「いやなに、サジタリスがイスラーファ様を見てえらく興奮しておったので釘を指しただけじゃよ。」


 「イスラーファ様も良くしのがれました、これで今日の予定は無事終了ですわ」


 ボーデン奥様も満足そうに言われます。


 「はぁ、サジタリス様がダキエの姫呼ばわりされるのが定着しないと良いのですが」


 「ま、それとなく嫌がっていたと告げとくから心配しなさんな。」


 カークレイ様の事ですから、気休め程度に期待しておきましょう。


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 ル・ボネン国への移動日などの、会議で決まった事とラーファの王都への帰還です。

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