第10話 ル・ボネン国から来る(3)

 使節団の歓迎会の朝の出来事です。

――――――――――――――――――――――――

 イガジャ男爵様とカークレイ様に帰還の挨拶とアイリス懐妊のお祝いを言ったのは、当日の朝 お茶の部屋で会った時になった。

 挨拶を済ませた後、今日の歓迎会の簡単な打ち合わせを行予定だったが?


 エイシャ奥様がラーファの髪を後ろで纏めているマーヤの作ったシュシュ見て近寄って来た。


 「イスラーファ様、その後ろで髪を束ねている布は可愛いですね」


 「マーヤの贈り者なんです、マーヤは『シュシュ』と呼んでいましたわ」


 「そのシュシュの飾りもマーヤちゃんが作ったの?」


 今度はボーデン奥様です。


 「はい、シュシュの布地で作った蝶の羽です、中に銀の針金が入っていて型崩れしない様に作られています」


 エイシャ奥様はシュシュにくぎ付けの様です。


 「素敵です事!」


 「今日の歓迎会でもそのまま使えますね、そのつもりですか?」


 「この髪で良ければ、このままの髪型で出席します」


 「ええ、少し手直しは必要ですけど、宜しくってよ」


 「正餐の2刻前に、昨日の部屋へ来て下さるかしら?」


 「はい、おうかがいします」


 カカリ村でも王都ウルーシュでも女性の髪を留めるのは紐や櫛だったから、マーヤが創ったゴムの様な伸び縮みする素材は無かった。マーヤは彼の方の知識から別世界の物を作り出したのだろう。


 マーヤがエイシャ奥様から詰め寄られてシュシュを作らされる未来を思って、仕方が無い犠牲だと諦めた。これはけっして昨日の意趣返しでは無い、断じて無いたら無い。


 不可抗力だ、その証拠にシュシュをラーファは見せただけでしかない。エイシャ奥様はこのシュシュを見たら興味を引くだろうとは思ったけど、此処までだとは思ってもみなかったのが正直な感想だ。


 マーヤが創ったのは神域に生える魔木の一種で、樹液からゴムの材料が摂れる。この木をダンジョンに持って行けば勝手に共鳴して魔石生物になるかもしれない。神域では小型の生物を樹液を固めた物を鞭の様に使って、捕まえて木の洞に在る消化液の溜まった中で消化して食べる魔木だ。トレントの亜種だとマーヤが言っていた。


 トレントと同じで普段は動かない枝の先端が垂れ下がり、その先に樹液が垂れて出来た紐のような姿をしている。獲物が近づくと枝から垂れ下がった樹脂を鞭の様に振り回して、獲物を捕まえる。


 これらの危険な魔物は倉庫として作られた空間とは別の、ワイバーン専用の飼育空間に居る。これはワイバーンが空を飛ぶ事をラーファが怖がる事が多かった最初の頃に、マーヤがラーファの目に付く場所から別の空間を作って移動してくれた時に作られた。


 さて、歓迎会は昼9時(午後2時)からの正餐で始まるから、その2刻(4時間)前だと昼6時(午前11時)にはエイシャ奥様の部屋へ行かなければいけない。


 やっと解放されたので、時間が在る間に男爵様と打ち合わせをしておこうと思う。


 「男爵様、少し歓迎会の件でお話したいのですが?」


 「イスラーファ様、私もそう思っていたところだよ。」


 「予定通り、正餐の後の歓談の時に使節団団長のサジタリス様へ、ル・ボネン国へ行く事をお伝えする積りです」


 「はい、意思表示は早めで良いと思います。」


 「問題は、マーヤの事です、ラーファはマーヤに付いて一切の話し合いをしたくありません」


 「そうですか、イスラーファ様の思われているままでかまいません。」


 「マーヤの件が話に出ても、知らぬ存ぜぬで行く積りです、神聖同盟が送り付けた中で書かれていた名はラーファの知らないエルフの女としか認識していませんから」


 「はい、私も、イガジャ侯爵も陛下もイスラーファ様のお考えの通りにする積りです。」


 「ご迷惑をお掛け致しますが、よろしくお願いいたします」


 「いえ、マーヤニラエル様の名を知られたのはわが国の失態、その位の対応は当然でございます。」


 「そうではありません、マーヤの事は何時か知られるのは当然でした、でもラーファから認める様な事はしないだけです」


 男爵様との打ち合わせは、会議の3日間はラーファは出席しない事。ル・ボネン国主催のお別れ会に出て今回はお終いなのを確認した。


 男爵様に会議で決めてほしい議題として、ル・ボネン国へ行く方法として飛竜に乗ってル・ボネン国に乗り付ける案を提案した。ル・ボネン国へ行く時期は、出来れば6月中が望ましいが遅くとも7月にはル・ボネン国へ移動できる様に、決めてほしいとお願いした。


 カークレイ様に歓迎会での付き添い役をボーデン奥様と一緒にお願いしているので、最後の打ち合わせを行います。


 「カークレイ様、今日はよろしくお願いいたします」


 「分かってるよ、ボーに迎えへ行かせるから一緒に来るようにな、儂は入り口で待っとるから。」


 「はい、サジタリス様を教えていただければ、ラーファから話しかけますので宜しく」


 サジタリス様にラーファから話しかければ、女性を下に見るル・ボネン国の人は驚くでしょう。


 「はっはっは、無茶しなさんなよ、いざとなったら助け舟を出すから。」


 カークレイ様が笑いながら、助けてくれると言ってくれます。


 エイシャ奥様の部屋へ行く時間が来たので、男爵様に別れを告げてエイシャ奥様の待つ部屋へと行く。


――――――――――――――――――――――――

 正餐から始まる歓迎会、食後に挨拶に出るラーファのようすです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る