第3話 ウルーシュの生活(2)

 国王はラーファを使って王都で一波乱起こそうとしているようです。

――――――――――――――――――――――――

 着の身着のまま応接室へ移動する事に成りました。

 応接室で待つほども無く直ぐに王様が見えられました。


 「急がせてすまんな、アリスは相変わらず竜騎士の姿が良く似合う、良き良き。」

 王様はご機嫌でアリスの凛々りりしい竜騎士の姿をめています。

 なんだかカークレイさまをほうふつとする爺バカ具合に感じるのはラーファだけでしょうか?


 「イスラーファ殿、良く来ていただきました、はじめてお目にかかりますな。」

 「私が、アークライト・ムコライ・オウミ この国の王ですじゃ。」


 深々とカーテシーをして挨拶します。

 「初めまして、イスラーファ・スオウ・エルルゥフ・ダキエでございます」


 お辞儀をしたまま、続けます。

 「ですが名前は神聖同盟から指名された事から捨てました」

 「今は、ダキエの滅亡で名を失くしました女でございます」

 「改めまして、魔女としてご挨拶申し上げます」


 神聖同盟への返書に名を書いた後イスラーファの名を名乗らない事にしました。

 故に、ダキエの滅亡で名を失くした女です。

 名が無いので魔女としか名乗りません。


 「そうかそうか、では改めて名を失くしたハイエルフ殿、いや魔女殿。」

 王さまも魔女で良しとされました。


 王様が『魔女殿』と呼ばれたので、ラーファは今後王宮では『魔女殿』と呼ばれる事に成る。


 「さて、魔女殿オウミ国はそなたに多大なる恩義を受けた、改めて感謝いたす。」

 王様が立ち上がると、軽く頭を下げて感謝の意を表してくれた。


 顔を上げられると、続けて言われた。

 「改めて、オウミ国はそなたの意にわぬ事はしない事を宣言する。」


 王様からお礼を言われるなんて思ってもみませんでした。

 「ありがとうございます」今はこんなありきたりの言葉しか思いつきません。


 王様は椅子に座られると、にっこり笑われた。

 「どうしても言って置きたいことは此れでおしまいじゃ、儂は魔女殿に会いたいと常々思っとたんじゃ、今日会えて望外の喜びじゃ。」

 目を輝かせて、ラーファの姿をじっくりと見てきます。

 不快な感じはしないので、ラーファに会いたかったのは本当なのでしょう。


 王様が真面目な顔になりラーファを見ます、カークレイ様から聞いたお願い事の話をするのでしょう。

 「魔女殿、実はお願いがあっての、魔女として王都ウルーシュで魔女の診療する姿を市民に見せてほしいのじゃよ、もちろん魔女の薬を使う所もな。」


 「もちろん魔女殿が、夏前に来て秋に帰るビチェンパスト国の船団を待つ間だけで良いのじゃ。」

 「目的は、魔女の治療を知らない者が多くて詐欺師が横行している現状を変えたいのじゃ。」


 「それから、儂からの頼み事と言うのも秘密にしてほしいのじゃ。」

 「王命じゃと民が恐れを抱く様での、出来るだけ民の一人として動いてほしいのじゃよ。」

 王さまはそう言って、ラーファが王都で新たに開業する魔女で治癒力の高さを王都の住民へ知らしめるために広場で治療を公開する、と具体的な背景まで決められてしまいました。


 ラーファはこの話を受ける事にしました。

 王様の思惑は分かりませんが、魔女の薬を広く一般の人々に広める良い機会だと思うからです。

 「お願いの件、私も同じ思いですので引き受けましょう」


 王さも嬉しそうに頷かれ「頼むぞ。」と言われた。


 王さまは頼み事を言われるとラーファとアリスに「長い飛行で疲れたであろうから、早く休むと良い。」

と言うと直ぐに部屋から出て行ってしまいました。


 王さまのお話には裏があると思うのですが、魔女の治療方法と魔女の薬の宣伝ぐらいしか思いつきません。

 王さまは何を狙ってラーファにこのようなお願いをしたのでしょうか?


 王さまは直ぐにでも魔女を必要としているかのような印象を受けました。

 町に夏の間だけでも見てもらいたい病や流行りそうな病があるのか、嫌な予感がします。


 『単純に魔女の治療と魔女の薬を見て知ってほしいだけじゃ無いの?』

 マーヤが神域から念話で話しかけてきました、マーヤは楽観主義ですね。


 王様はカークレイ様と同じ好々爺の様に見えました。

 でも実際のカークレイ様が領主としてこれまでして来た事は、きれいごとでは済ませられない冷徹な処断も多くありました。

 レイやアリスへ盗賊団へワイバーンでブレス攻撃させた事だけでも分かる事です、アリスなど当時12歳でした。


 カークレイ様ですらそうなのですから、増してや王様と成ると推して知るべしです。

 ラーファは胃がしくしく痛い気がします。

 此れから行う公開治療で、待ち受けている何らかの厄介事を思うと不安でいっぱいなのです。


 『ねぇラーファ、マーヤは聞いていて不思議に思ったんだけど、なぜこの話をひきうけたの?』

 『ラーファが王様のお願いだとしても引き受ける理由は無いよね?』


 『単純に良い機会だと思ったからなの、前から魔女の名をおとしめる詐欺師が許せないと思っていたの』

 『王都の人たちに本物の魔女と魔女の薬を知ってもらえる方法が、何か無いかと思っていたわけ』

 『王様の話は、まさにこの目的に沿ったお話だったから引き受ける気になったのよ』


 『ラーファが良いのならマーヤは気にしないよ』

 『マーヤも初級や中級の回復薬を山ほど作って提供するわ』

 『それに新しく魔水化で作れるようになった、傷薬と解熱、解毒、風邪薬の初級版があるよ』


 『まぁ、とうとう出来たのね、これで銅貨で薬を売れるようになるわ』


 『ありがとう! マーヤ』


――――――――――――――――――――――――

 次回は、広場での公開治療へ向けて動き出します。

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